こころはきみによりにしものを 102

それは恋じゃない。







扉を開けたスザクの前に立っていたのは元婚約者だった。
「……ユフィ」
「こんにちはスザク」
しきりに長い髪を気にしている様子だったユフィは「まずはごめんなさい」と頭を下げた。
「本当はもっと早くに来なくてはいけなかったんです。父がご迷惑をお掛けしました」
「教授は……」
「父は元気ですわ」
あの事件で結局一番どん底に落とされたのはユーフェミアの父だったのだ。味方もおらず、気付けば中傷の渦の真ん中に立っている。地位も名誉も全て剥奪され、ちやほやしてくれる人も周りからいなくなった。そこでようやく気付く。何をしたのか、何が大事だったのか。
「母が……母が側にいたんです。今は小さな家で仲良く暮らしてます」
スザクは頷くしかない。スザクも気にはしていたのだがあの時のスザクの立場では何も出来ない。まず何をしたらいいのか分からなかった。それに会ったとしても何を話せばいいのかも皆目見当がつかない。陥れようとしていた人物が現れても困るだろう。

「ユフィ、中へ」
「いえ、ここでいいんです」
ユフィは花が囲うクリニックの周りを眺め微笑んだ。

「スザク、私は……あなたの事が好きでした」

来客だと思い玄関まで出てきたルルーシュが足を止める。あの人だ。一度電話が掛かってきた女の人。ジノ先生が言っていた先生の事が好きだっていう女の人。
オレは───。

「ううん、好きだと思っていたの。でも、私はあなたに恋している自分が好きだったんです」
それは似てはいるが全く違うものだ。恋に恋していただけ。
「私、あなたの前では本当の自分が出せないことにようやく気付いたんです。今だって、髪や服が気になって仕方ないの。おかしいでしょう? 変な私をあなたに見せたくないのね」
綺麗な姿を好きな人に見せたい。可愛い女の子でいたい。それは恋する女性では当たり前の行動だろう。でも自分は違った。
スザクのためにこれだけ努力をしているのだと、それを得意に思う自分がいたのだ。そしてそんな自分を好きになるのは当たり前だと思っていたから……。
「あなたが何も言ってくれない事に腹を立てていたのね。絶対に好きになるはずだって思っていた」
だから意地になっていた。そんな態度に出ればよけいに嫌われるのにそれさえも気付かずにいた。

「ねえ、スザク。あなた私が林檎を丸齧りする姿って想像出来る?」
「君が?」
スザクの知っているユーフェミアはいつだって鼻をつんと高くしてお姫様然としていた。そう、確かに自分のことを好きにならないなんておかしいという態度でいた。スザクとのことも親が決めたからとその点だけを強調して分かりあおうなどと思いもしないそんな女の子だった。
「いや、ごめん。全然考えられない」
「そうでしょう?」
ユフィはくすくすと笑う。
「私が……あなたと出会っていた頃に林檎を齧っていたらスザクは私の事を好きになってくれましたか?」
「魅力的だっただろうね」
ユフィは微笑んで、しかしきっぱりと首を横に振った。
「でも駄目ね。私はあなたの前でそんなこと絶対に出来ないもの」
スカートの皺がさっきから気になっているし、鞄は右手に持った方がよかったかしら?などと未だに考えているような相手の前でそんな事出来るわけがない。
「……私今度結婚するんです。その人の前では出来るの」
林檎を齧ることも、大きな声で笑うことも出来る。スカートを気にせず走ることも出来る。

「おめでとう」
「有難う」

「私、あなたに父の事を謝りたかったんです。それにやっぱり気になったの。自分だけ幸せになったら後味が悪いから。スザク、あなた好きな人いる?」
その時スザクが見せた笑顔にユフィは一瞬こみ上げてくるもの感じ、自分では駄目だったのだと再確認した。


「大事な人がいる。大切な人なんだ、とても」








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