レギュレータ regulator 83.

仮面











「な、なんでジノがここにいるのよ!」
およそ牢獄という場所に似つかわしくない青年の姿に、カレンは茫然と立ち尽くす。助けに来るのならば咲世子か、もしくは幼馴染の双子だと思っていたのだ。それなのに、これはどういうことなのか。
ロックを外そうとするジノにカレンは慌てる。自分がいない間に何が起こったのかまったく理解出来ていない。
「ジノ!」
「カレン、ここはもうブリタニアではないんだ。少なくとも私がラウンズとして守る国ではない」
最後に自分の認証番号を入力するとロックは外れた。ラウンズというのはこんな権限まであったのかと今知った自分にジノは笑う。まったく必要としない部分にまで関与出来る力を与えられていたという訳だ。間に何も挟まず、互いに直接顔を見る。
「カレンが言っただろう? 自分の守りたい物は自分で守るって。私もそう決めたんだ。だからカレンを守る」
「……勝手に決めないでよ。わたしは守られる側は嫌なの」
少しだけ黙ったジノは、顎をあげて笑い出す。快活な明るい声が、この場に反響するように広がった。
「ジノ!」
「そうか。そうだよ。こっちのカレンの方が私は好きだな。是非一緒に戦おう。あの紅いKMFのパイロットには驚いたんだ。その相手と一緒に戦えるのは非常に嬉しい」
改めてよろしくとジノが右手を出すと、カレンは戸惑った様子を見せてから右手を出してきた。カレンがジノの手を握ろうとした瞬間にぐいと引っ張り、もう少しでキスが成功するところで───今度はカレンの左手がジノの頬に綺麗に命中。
それはそれはいい音がする。
「甘い。わたし左利きよ、忘れた?」
「ム、ムード先行しようとしたんだよ!」
どうなるかと指の間からちらちら見ていたニーナも笑いだし、3人で笑う。
「お姫様には最上級のドレスと馬車が用意してある。そのままルルーシュ殿下の方へ移動してくれ。後からこちらも合流する」
「OK、向こうで会いましょう」
カレンは転びそうなニーナの手を引っ張って走り出す。ふと、カレンが立ち止り振り返った。
「ねえ、ジノ! わたしも今のジノの方がいいと思う!」
その後、真っ赤に染まったままのジノがゲンブとスザク、アーニャの前に戻ってくる。
「ジノなんだよ」
「カレンは無事?」
「真っ赤。記録」
ジノは一旦黙ったあとで、うおーーーっと叫び、その場で煩いと言われるがお構いなしだ。
「なあ、すぐに行こう! 私はカレンの隣にいたい!」
「煩いなあ、僕だって我慢してるんだからね! 僕だってルルーシュの隣がいいのに、ジェレミア卿がくっついてるんだよ!! ちょっと近づくと凄い目で睨むし!」
「へ? ちょっと待て、スザク、お前ルルーシュ殿下ぁああ!?」
「恋人だよ。殿下に騎士の誓いもしてるからな、スザクは」
へへん、と得意げなスザクの首を後ろからジノが締め上げる。その場に笑い声が広がっていく。荒れ狂う世界の中で平和な声が、少しだけせつない。


シャルルはガラス越しの窓から空を見ている。空の青さはブリタニアも日本も変わらない。
「陛下? 目が覚められまして?」
小さなワゴンを押して入ってきたのは、日本国枢木首相夫人だ。ここに来て、ようやく息がつける状態になった時にこの夫人からビスマルク共々説教をくらった。世界超大国の皇帝に向かって、頭からガミガミと叱ることが出来る人間など───マリアンヌしかいないと思っていた。
「お食事、出来そうですか?」
小さなテーブルが用意され、白い粥を茶碗によそうと夫人は木の匙と共に皇帝の前に置く。
「早くお元気になっていただきたいですわ。我が家のばあやが腕が振るえないと残念がっておりますから」
食事といっても、薬で胃がやられてしまい、こういった流動食に近いものしか食べることは出来ない。それでも『食べ物』を口に入れるというだけでも気持ちは随分変わる。

気付けば日本にいた。勝手に判断し、行動したことをビスマルクはシャルルに詫びたが、始めこそ驚いたものの頼れる場所は考えてみてもここしかない。
『あの双子の行動と首相の考え方は、信用しても大丈夫だと判断しまして』
ラウンズになっている兄弟とは、それほど言葉を交わしたことはないが、さすがにビスマルクはラウンズのリーダーとしてよく話すのだろう。
───もっとも、ラウンズにしたことすら記憶にない。
それは枢木首相夫妻にシャルルも詫びねばならないことであったが、薄々感づいていたらしい夫妻は、責めることもしなかった。
「いざとなったらKMFぶんどって帰ってきなさいと2人には言ってありましたから。なんだかそれを実行する事になりそうで、こちらこそ申し訳ございません」
その場ではカラカラと声を上げて笑い飛ばしたファーストレディが、毎夜皆が寝静まった頃、滲む涙を誤魔化すよう瞬きを繰り返しながら、息子たちの無事を祈り鶴を折り続けていると、後から知った。

儂も動かねばならない。


すっかりコーネリアの作戦室へと変貌を遂げたのは枢木兄弟の館だ。最初に足を踏み入れた時は、地下に平然と通信室等があることにコーネリアは口もきけない様子であったのだが、今ではこれがあって非常に助かっている。これに加えて特別派遣嚮導技術部も同じようなもので、マリスとランスロットだけではなく、コーネリア達のグロースターまで抱え込んでてんてこまいしていた。最も趣味と仕事が一致しているロイドには諸手を上げて大歓迎という感じで、セシルも当然こういったことは決して嫌いではない。という訳で特派の主任、副主任が大喜びでKMFを触りまくり、他の研究員たちが悲鳴を上げている状態だ。
許されうる範囲の装備を完成させた紅蓮は、昨夜カレンが来て引き取っていった。セシルから分厚いマニュアルを渡されたカレンは顔が引きつっていたが、きっと目だけ通すだけで実践で何とかしてしまうに違いないだろう。コーネリアと対峙して倒れそうになっているニーナと共に、潜水艇で移動していった。ニーナの方はロイドから大量の資料を渡されていたが、こちらの場合は顔を輝かせていた。しかしながら、今後の動きはニーナにかかっている。
鍵はフレイヤだ。
現在は世界はシュナイゼルの行動に委ねられてしまっていると言っても過言ではない。
シュナイゼルの言っていることは素晴らしい。人々の願いを叶えたいとあの微笑みはそう語る。貧困や差別、世界に溢れる問題をなくして、皆が幸せに笑う世界を作り上げたい。だが、その全てを叶えることはそれは不可能に近い。では、その中のもっとも愚かしい戦争を無くしてみせる。
「理解や話し合いでの平和は幻想だ。力だよ、全て」
それで、とさらに笑みは深くなる。
「戦争をやめてくれない国に、フレイヤを落として上げよう。これはブリタニアからの贈り物だ」

「……やっぱりどうしようもない馬鹿じゃないか。これのどこが平和だよ」
全世界に流された映像を腕組みしながら見ていたゲンブが呟き、思わず同意して頷いたバートはジロリとこちらを見た父ダールトンの視線に首をすくめる。
「皇帝になれなかったから支配者になるんだよ。どちらにしてもブリタニアの名前はいるんだね」
兄の隣で同じ格好をして見ていたスザクも、画像を睨みつけている。
シュナイゼル一人の力ではない。ここまでどれほどの人の力を要してきたのか。それをあたかも自分一人で築いてきたような顔をした時点で、器が知れる。
シュナイゼルは仮面を被ってきた。優しく慈悲深く優秀な宰相は、冷徹で目的のためなら人間すらも使い捨てする本性を隠して行動してきた。
そんな仮面がいったい何の役に立つというのだ。
ゲンブとスザクの2人も仮面を被り続けてきた。故郷を裏切るような行為を続けてきた。敵国の皇帝を守護し、忠誠を誓い、その国のために戦ってきたのは、すべて自分の愛する故郷を守るためだ。
すでに世界はシュナイゼル派とその他に分けられてしまっている。シュナイゼル側についてどうにかしたいと思っている馬鹿共もいるのだが、全く本質を理解していないのだろう。
「守りたいものもない、執着もない。金髪って、生きてて楽しいのか?」
「目的が遂行出来れば自分の人生も他人も関係ないんだから、僕らには最後まで理解出来そうもないよ。そろそろ合図かな?」
パイロットスーツのファスナーをあげて手袋をはめる。ゲンブはその手袋の隙間に自分だけのお守りを滑り込ませた。










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