レギュレータ regulator 80.

暗闇。







「皇帝陛下におかれましては、ご存命とお伝えしても構わないと」
ビスマルクが確認するように枢木首相に視線を送れば、首相も黙って頷くが「だが」と言葉を重ねた。
「現在も臥せっておられる。少しずつ解毒はされているのだが……」

父親の出発がずれたのは、ビスマルクが急遽一緒に出向くことになった為だった。


あの暗殺事件の後、ビスマルクは瀕死状態の皇帝を連れ逃げこんだのはアリエス離宮であった。そのことに、その場の全員が驚きで口も利けない。捜しても探しても見つけることが出来なかったシュナイゼルが聞いたら、激怒するに違いない。
「秘密裏に隠し通路が作られておりました。ルルーシュ殿下、サンルームの下に地下室があったのはご存じか?」
「サン……ルーム」
母マリアンヌが一番好んだ部屋であり、兄妹三人がよく遊んだ部屋。三人で取り囲んで、真ん中に座った母は歌い、本を読んでくれた思い出の部屋。
「知らない……」
「マリアンヌ様はお教えにならなかったのですね。あれは……本当に最後の手段でありましたから……」
「ヴァルトシュタイン卿はあの時、」
『陛下!! まさかあれをっ!』
宮殿が爆発音に包まれた時、ビスマルクは確かにそう叫んでいた。スザクの問いにビスマルクは静かに頷く。
「陛下はすべて分かっていたのです。そうすべてを……」

シャルル皇帝が自ら望んで召し上げたのはマリアンヌ皇妃だけであった。
「血の紋章事件、あの時を境にブリタニアは大国として見事なまでに立ち直しました。その陰の立役者がマリアンヌ妃です。覇権主義政策に則った侵略戦争の時代とも言われますが、植民地化された国々には皆共通点があります。すべて先進国ではありません」
ビスマルクはルルーシュが出した世界地図を指で示す。その地図は以前同様の内容の話を枢木首相と話した際に、ルルーシュが作成したものだ。
「あらゆる国々が次から次へと侵略されていくように、世界には見えていたでしょう。ですがどれも資源を豊富に持ちながら、それを利用できていない国に絞られていました。実はその手伝いを行っていたのです。最もそういう国には自国に満足出来ていない反政府のグループが多い。それが目標をブリタニアに変えたことにより、テロが表沙汰となり争う事が多くなったように見えていた」
コーネリアも黙って聞いている。
「進軍に関しても、向こうで抑えられなくなったテロリスト排除だけだったのですが、それをシュナイゼル殿下は歯がゆく思われていた」

シュナイゼルは幼き頃より優秀であると言われてきた。政治面においても同年代の者達とはまるで違う、ずば抜けたセンスを持っていたが、皆が認めるその才能を一人認めないのがシャルル皇帝であった。いや、認めてはいたのであろうが、シャルルは早くからシュナイゼルの───温和で人当たりの良い仮面の裏に隠された「非情で、冷徹。目的の為ならば犠牲など気にせず、人も道具も使い捨て」という心的傾向に一人気付いていたのだ。

「……シュナイゼル殿下が目の敵にしたのがマリアンヌ様でした。何しろご自分が望んだ椅子に座り続けているのがマリアンヌ様でしたので」
皇帝からの信望厚く、愛情も得ている愛妃。しかもマリアンヌはシャルルに向かって苦言を呈しても、処罰などされることはない。真っ向から反論しても、それを意見の一つとして皇帝は受け入れていた。
「しかし、それは父上とマリアンヌ様はご夫妻であられたのだから、兄上とは立場が違うと思うが……」
コーネリアの意見に「ごもっとも」とビスマルクは答える。しかし、歪んでしまったシュナイゼルにはそうは考えられなかった。
「ルルーシュ殿下。マリアンヌ様暗殺の黒幕はシュナイゼル・エル・ブリタニアです」

永遠に続くと思っていた、幸せな日々が終わってしまったあの日。
アリエス離宮、吹き抜けになったホールの階段で、母マリアンヌは妹ナナリーを庇うように息絶えていた。母の胸に抱かれたまま、ナナリーは絶命していた。
最愛の母と妹を同時に失ったあの日。

「ルルーシュ、しっかり!」
「あ、ああ……だい、大丈夫だ……」
震える手を握りしめる。あの兄が犯人。母上、ナナリー……。
『ゼロ、ルルーシュ』
『ゼロにいちゃま、ルルにいちゃま』
力一杯握りしめている拳がそれでも膝の上で震える。その震える拳を、スザクの暖かい掌が包み込む。
「ルルーシュ殿下……陛下はゼロ殿下とルルーシュ殿下のお二人だけでも助けようとなさったのです。面会まで時間をかけたのも、その準備の為でした。そして、お二人を皇族から抜けさせようとなさった……」
「え、……あ!」

大勢の者達が見ている前で、シュナイゼルも見ている前で、ゼロとルルーシュに「皇位継承権の放棄」を宣言させる。

「あれがお二人をお守りできる唯一の手段だったのです。皇族でなくなれば、もう関係ありません。お二人の保護先も検討されていた。しかし、その前にシュナイゼル殿下方に説得され、お二人は放棄の撤回をされてしまったのです」
それは皇帝が何度も後から悔やんだ最大の失敗であった。大勢の謁見者達の前で罵倒し、突き放すことによって誰からもゼロとルルーシュは「見捨てられた皇子達」となる。だが、唯一シュナイゼルだけが、その裏に隠された愛情を見抜いたのだ。
マリアンヌと同じ、処罰されない子供達。
もし、他の皇族があんな所で皇帝に反抗すれば、その場で即処刑であっただろう。だが、二人はそれがなかった。

コーネリアがダールトンを振り返れば、ダールトンは難しい顔をしてじっと聞いている。皇位継承権を放棄させるような会話という説は、正しかったのだ。

「その後は皆様ご存じの通り、お二人は反逆の皇子達として行動も制限され、さらし者とされていた。それを陛下はどれほど心配されていたか……。口に出せぬ分、環境には気を配られておりました。そう、例えばゼロ殿下がアリエスを抜け出す───といった時に衛兵達の目が行かぬようにしたり」
「ビスマルク! それでは父上は、全部!?」
「ある程度のところまで、です。シュナイゼル殿下が薬を持ち出すまで……」
それは食事に、飲み物に。少しずつ混入されていた薬。自我を無くさせ、思いのまま操る事が出来るように。
ここで完全にブリタニアの方向が切り替わる。「覇権主義国家」への道を進み、無差別な植民地化計画の始まりだ。

コーネリアは完敗とばかりに、椅子に深く沈みこむ。
「……兄上は一体何がしたいのか……皇帝になりたいのであれば、あの人ほど玉座に近い皇族はいないであろうに……」
「近くとも座れないのです、コーネリア殿下。シュナイゼル殿下は誰も信じておられぬ。自分で奪い取る以外に選択出来ないのです」



暗闇しか見えない海底。
ルルーシュとコーネリアは何も言わずにただ並んで立っている。
暗闇。
あの華やかで、常に穏やかな笑みを浮かべていた兄の中は、こんな暗闇であったというのか。

ビスマルクは、シュナイゼルの追っ手を振り切る時間稼ぎの為アリエスにしばらく潜み、その後内密に日本へ連絡をとった。勿論、拒否されることも念頭においての行動であったが、通話が繋がった次の瞬間に夫を突き飛ばした首相夫人から「とっとと来なさい!」と叱責を受ける。すぐに日本からの迎えが到着し、現在皇帝は枢木本家にて治療中だ。シュナイゼルの薬を少しずつ体内から除去しているが、長きにわたる蓄積で時間がかかると分かっている。

「陛下は、ずっとゼロ殿下とルルーシュ殿下、それにユーフェミア殿下の心配を口にされております」
シュナイゼルの銃弾から、ユフィが身を挺して皇帝を守ったのだと聞かされた時、コーネリアは怒りで真っ赤な顔となる。
「兄上は自分の罪を全てゼロになすりつけていたのか!!」
真実を知れば知るほど、なるほどシュナイゼル程皇帝に遠い者はいない。その椅子をねらっているというのならば、確実に周りを騙し、計画しなければ無理だ。

「……ルルーシュ、私もこちらに入るぞ」
「姉上」
「今のブリタニアを私は守りたいと───思えないのだ」
すぐに計画を立てようと姉が弟に笑いかけたその時、星刻が走ってくる。いつも冷静沈着なこの男にしては大層珍しい。
「星刻? 何かあったのか?」
「ルルーシュ、シュナイゼルが動いた」

天空要塞ダモクレスがフレイヤを発射した。
世界は恐怖に包まれる。



***
とうとう80話。おかしい、もうちょっとサクサク進めていく予定だったのに(いつも・笑)

これからが正念場。宜しくお願いします。


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