月なき夜にはあくなき夢を 12.

君の罪は僕の罰  第二章 「月なき夜にはあくなき夢を」 12.











月明かりの差し込む窓に、ナナリーは立っている。
「誰か……泣いてる……」
「ナナリー……?」
振り返れば、アーニャがベッドの上に起きあがっていた。こくりと首を傾げればいつも結んである髪が、ふわりと肩にこぼれる。
「どうしたの?」
そう言いながら、アーニャもベッドから抜け出すと、ナナリーと並んで外を見る。
「ごめんなさい、起こしちゃいました?」
「大丈夫。ナナリー、眠れない?」
「いえ……そうじゃないんですけど」
ナナリーはもう一度月明かりに照らされた庭を眺めた。計算し尽くされた庭園が広がっている。館の庭も美しく整えられた物ではあるが、こんなに冷たくは感じない。いつの間にか庭師の仕事まで押しつけられたジェレミアと、見かねて手を貸すスザクの二人が、見よう見まね、園芸の本と首っ引きになりながら、整えた庭は暖かみのあるものとなっている。
「……帰りたいですね」
「早く帰る。ルルーシュもスザクも泣くからヤダ」
兄二人が泣くから嫌だというアーニャ自身も、悲しげに瞼を伏せる。
「寝ましょう。明日、お兄様たちと相談して片付けてしまいましょうよ」
こくんと頷いたアーニャの手を引いて、ナナリーは一つのベッドに潜り込む。両手の指を互いに絡ませあうと、ゆっくりと生気が流れ込んでくるのが分かった。
───泣いているのはお兄様たち。
帰ったらシュナイゼル兄様はお仕置きですと呟いたナナリーに、アーニャも賛同の意を示した。

おや、と後ろを振り返ったシュナイゼルに、モニターを眺めていたC.C.が「なんだ?」と声をかける。
「いや、ちょっと背筋がね」
「まあ、お風邪でも召されましたか?」
人形の如く、ちょんとソファのクッションの上に座っている神楽耶だけが心配そうな顔を見せるが、C.C.とカノンに至っては「ふうん」と笑うだけだ。
「どうせ、誰かに噂されてるんだろう? しかもロクでもないヤツに決まっている。心当たりがあり過ぎて困るほどだろう?」
「おや、酷いねC.C.は。これだけ冷たいとこんなにまで心配してくれる神楽耶の優しさが嬉しいね」
「神楽耶、こんなヤツの心配するだけ無駄だぞ」
それでも「卵酒でも」と動き出しそうな神楽耶を、カノンも心配いらないと止めた。
「巫女姫、いいのですよ、この方は放っておいて」
ここにきてシュナイゼルは持っていた資料をデスクにおいて、やれやれと項垂れる。
「どうやら、君達も怒っているようだね」
「まあようやくお気づきになられましたか」
ツンとした顔を見せるカノンに、苦笑したシュナイゼルはコーヒー一式が備わっているカウンターへ歩き出す。どうやらコーヒー一杯も淹れてもらえそうもないと判断したからだ。

本当にあの二人に、皆は甘い。それに自分も含まれることは重々承知してはいるが。

「君たちはどう?」
「私たちの分も淹れるに決まっているだろう、いちいち確認するな」
怖いね、とおどけたように肩をすくめたシュナイゼルだが、この罰は甘んじて受け入れるしかなさそうだとコーヒーの豆とミルを取り出した。ここではこうしたアナログの物がアンティークとして好まれているらしい。ポットの細い口からゆっくりとドリッパーの粉に湯を注ぐ。ナナリーがいたら、とびきりのコーヒーが出てきたであろうが、今回はこれで許してほしい。

いい香りが部屋中に漂い始める。

「それで、進行状況はどんな感じなんだ」
「ルルーシュ達が目をつけた場所が当たりだろうと思うよ」
シュナイゼルだけでは心許ないと判断したカノンが、キャビネットからカップやスプーンを取り出してくる。完全に放り出すことも必要だと思うぞと、いそいそ動いているカノンをC.C.は眺めるが、この2人もルルーシュとスザク同様に唯一無二の魂の片割れ同志なのだから致し方ないであろう。
「それを潰せば終わるのか?」
「それがなかなか上手くはいかないのだよ」
シュナイゼルはカップを持ち上げ、まずまずの芳香が鼻をくすぐるのを楽しんだ。だが、あえて口には出さない。自画自賛などしようものなら、このメンバーの時には自分がコーヒーを淹れることが決定してしまうからだ。
「出回っている薬も回収しなければならなだろうから、まずはデータの照会が必要だ」
「回りくどいな。俺様坊やではないが、乗り込んでしまえば全部手に入るだろう?」
「それで済むのならばね。研究所にいる人間たちのスポンサーも潰してしまわないと終わらないのだよ」
やるときには何もかも一度に全てを。


シュナイゼルからの資料は相変わらず厳重なパスワードがかけられており、ルルーシュは今回も悪態をつきながら一つずつ外していく。そして、ようやくあらわれたそれに目を通すと、ちっと舌打ちをする。
「詳しいものがあるのなら、さっさと寄越せばいいものを」
何が出し惜しみしている訳ではない、だ。こんな勿体ぶったやり方!
資料をデータチップに移し、ルルーシュはスザクと部屋を出る。急に開いた扉に、外で聞き耳を立てていたらしい連中が慌てふためくのを、ルルーシュが呆れた顔で眺めた。
「ピーピング・トムが大勢いるぞ、スザク」
「覗き、とはね。今から授業なのに、そんなことしないよ」
スザクはルルーシュの細い腰を引き寄せて、その黒髪に唇を押し当てる。
「僕は夕方まで我慢すれば済むんだけど」
「こいつらは今から脳内妄想だろう。まあせいぜいオレを色っぽく想像しろ」
「想像以上だけどね、本物は」
くすくすと笑いあいながら、二人は歩いていく。

「……睨みつけられているよ」
後方から殺気すら滲ませた視線がスザクに突き刺さっている。
「やっぱりやりすぎだったんじゃない?」
「焦るあまり、ポカする可能性は高いだろう?」
そうは言うけど、とスザクは不自然にならない動きで後ろを振り返る。マオが柱の陰に隠れたのが分かった。

絶対に、指一本だってルルーシュに触れさせてたまるか。


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