ここに覇者たる者の名を~其は紫紺と翡翠の一対にて~38.

ここに覇者たる者の名を~其は紫紺と翡翠の一対にて~37.













contact.5 approach
2話:和平外交 /scene.1 


 ルルーシュの朝は、コーヒーを飲みながら、スザクのスケジュールと政庁・軍部からの情報に目を通すことから始まる。

 寝室からダイニングに移動させた端末で、夜の間に入る様々な部局や本国からのメールや情報を確認し、前夜に立てておいたスケジュールを調整、伝達事項をまとめていく。最重要案件は本人に直接連絡されるため、この段階ではルルーシュは関わらない。スザクに伝えなければならないこととこちらで処理していいものを割り振って、かつ彼の時間と状況に余裕を作る。某かの突発的事態に備えるためである。
 それから、二人の朝食の支度や家事にとりかかる。
 一週間のうち半分を和食とした献立は、ことのほかスザクを喜ばせたが、同時に、食事をしながらスケジュール連絡を簡潔に行うことは、それ以上にスザクを感心させた。

「どうして騎士団が瞬く間に力をつけていったか、身をもって体験してる感じだよ」
 好物のほうれんそう入り卵焼きをぱくりと食べて、スザクが嬉しそうに笑む。
「君がいれば、全部お膳立てされていくだろ。戦略構築、情報収集、資金投入、現況分析、作戦決定と、ほんとに全部。周りは君の言うままにできる人間だけ揃えばいいわけだから。本当なら、様々な能力のあるブレーンが協力して為さなければならないのに、ほとんど君一人で事足りてる。これなら、成功率も完成度も高くなるよ。途中で起こる軋轢はないし、決定も迅速。その分、君がいないと話にならないだろうけど。……しかも、お味噌汁や卵焼きまですごく美味しい」
 満足げなスザクに、騎士団と味噌汁は関係ないぞ、とルルーシュは苦笑した。
「……逆に言えば、そうでなければ、元ブリタニアの皇子である俺が、反ブリタニア勢力を作ることなんてできなかっただろうさ。すべての情報を把握し勝ち続けるからこそ、彼らは俺を認めている。ただ、初期の騎士団と違って、国際統一軍としての組織運営になったし、俺の手を離れた部分もかなりある。ブリタニア側もほとんど動きがないしな」
「……そのことなんだけど」

 スザクが、少し言いにくそうに言葉を継いだ。
「昨日、ブリタニア全軍宛の通達が来てね」
「全軍?」
 うん、とスザクはうなずいて、食べ終わった茶碗を差し出してきた。ルルーシュはそれを受け取って小さな桧の櫃からお代わりをよそる。炊きたての白米をこの櫃に入れておくと、ふっくらした食感と温かさが持続し、冷めても美味しいからと、米好きのスザクがわざわざ取り寄せたものだ。
「……陛下の在位三十年式典、本国では準備が進んでたんだけどね。各地の戦闘が小康状態になったのがちょうど良いということで……、各戦線は指揮官の采配で停戦維持を第一に、余剰人員には休暇を与えよ、という訓令が」
 二杯目を受け取ったスザクはご飯を口に運び、うん、やっぱり美味しい、と言った。
「……つまり、本当にブリタニア軍は停戦状態になるわけか?」
「敵性国家に対しても和平外交に切り替え、できうるならば一時的でも停戦条約等で安定を図れ、各軍の顕著な動きは殊に慎むべし、ってさ」
「……誰の画策だ」
「陛下」
 思わずルルーシュの箸が止まる。

「……なんの冗談だ」
「冗談じゃなくて。ヴァルトシュタイン卿からも連絡が来て、『陛下は、主だった将官の式典出席を厳命にせよ、とも仰っていたぞ。お前がなかなか帰ってこないせいだな』と笑ってた」
 スザクが話すブリタニア宮中でのエピソードは、皇帝と宰相だけでなく、その腹心の部下までも、なぜかスザクに対する言動が一様に甘い。侍従長を筆頭に、ナイトオブワン、特務総監、シュナイゼルの副官であるマルディーニ伯爵などは、その代表である。まさかここまで周囲をたらしこんでいたとは、とルルーシュはその度に溜息をこぼしたくなる。
「……式典はいつだ」
「二カ月後の予定」
 神経に障る嫌な感覚に、ルルーシュはわずかに瞳を険しくした。
「……まずい符号だが……まさか、シュナイゼルとあの男が、共謀している訳は……」
「三日前にいただいた司令官付秘書官の話? 違うだろ。だって、陛下は戦闘差し止めを命じてるわけだから、海賊殲滅は式典後になるよ」
「……そうか」
 ひとつ息をついて、ルルーシュは中断していた食事を再開した。

「大丈夫だよ、ルルーシュ。殿下は陛下に報告すると仰ってたけど。そもそも陛下は、君がZEROとご存じなわけだから、疑念がおありであれば、俺に直接お尋ねになるって」
「……ま、そうだろうな。直臣にして騎士、ついでに第一の寵臣、と言われるくらいだからな」
 冷ややかに言い連ねたルルーシュに、スザクが苦笑した。
「君のことを推察してても殿下も陛下も動かれていないのだし、おそらく君の存在を認めたんだと思うな。ある意味、陛下も殿下も『強者(つわもの)』がお好きだから」
「ふん。馬鹿を言え。こちらを侮っているだけだ。腹の立つ」
 宥めるスザクに反論しながら、ルルーシュは居心地の悪さを味わった。
 先日もそうだったが、スザクの口調は、まるで、彼ら二人が自分を擁護しているかように聞こえる。これが他の官吏や軍人、貴族の発言であれば、嘲笑して歯牙にもかけないが、皇帝と宰相のそば近くに仕え、さらにその信任の厚さたるや余人の追随を許さない、と宮中で囁かれる彼の言葉だと、いささか無視しきれない側面があった。

「……その件は、まあいい。それよりスザク。午後にローリング卿が来る予定だが、彼の案はまだ片づかないのか?」
 ルルーシュの確認に、スザクが首をかしげる。
「俺としてはさっさと処理したいんだけどね。彼がこだわってて」
 ローリング卿は、租界の市街区整備を担当する都市計画局政務官である。ひとつの政策を立案した彼は、それをどうしても実施したいと、ここのところ足繁くこちらに通ってきている。今回も、改善した計画書について面談を要望してきていた。
 食後の緑茶を淹れたルルーシュに、スザクはしみじみと言った。
「熱意は認めるけど、どうも立案の視点が租界に偏りすぎなんだよなあ。もう少し周辺のゲットーについても考慮してもらわないと」
「ブリタニア市民側の立場では、そうなるだろうな。あと、招待されたムーア子爵の夜会は変更なしか」
「彼はゲットー復興に関して協力的だからね」
「……そうか」
 ルルーシュはそれ以上言わずに、空いた食器を重ねた。




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