レギュレータ regulator 94.

眠りの中。









挨拶もそこそこに走っていく弟に苦笑してから、コーネリアは枢木首相や官房長官の仙波達と貴賓室へと向かう。副長官である藤堂とは、ダールトンもギルフォードも戦友といったところで、全員が打ち解けての会談は話も進む。
シャルル皇帝は現在不在ではあるが、病状は随分良くなってきており、しばらくすれば表にも出てこられるようになるであろうとは、中華連邦の医師達の見立てだ。リーファが付ききりで皇帝と皇女の看病をしており、中華連邦軍総司令が、あんまりいい顔をしていないという報告に、その場の全員が笑いを浮かべる。
星刻がいい顔をしない理由が「君主にそんな事を」という従者からの意見ではなく、そこからかなり斜め上に飛んでいることを全員が知っているからだ。


「……お前、なにしてるんだ……?」
病室に走り込んだゼロが見たのは、起きあがったゲンブが大きな口を開けて、今まさに白い固まりを放り込むところであった。
「めし、食ってます」
そう答えて、ゲンブは持っていたおにぎりの最後の一口を放り込む。
いや、それはゼロにも分かる。食べているものは、見たことないものではあったが、ゲンブの前のトレイにはまだ器が幾つか並んでおり、誰が見ても食事をしていると明らかに分かる状態なのだから。
「そうじゃないだろう、お前、まだ手術したばかりなんだぞ!?」
「でも腹減っちゃって。病人食じゃ全然足らないんですよ。治すには自分で血を作らなくちゃ。あー肉食いたい。さすがにまだ駄目かなあ」
そう言いつつ、ゲンブが次の器へと取りかかるのをゼロは呆然と見ているしかない。

自分のせいで怪我をさせたと、どれほどの心配と後悔を抱えて、夜を過ごしていたと思っているんだ、この馬鹿は!

ぎりぎりと拳を握っているゼロの後ろで、病室の扉が開いた。
「あらあらまあまあ、もしかしてゼロ殿下ですか?」
明るい声に振り返ると、そこにいたのはゲンブとスザクによく似た女性、枢木首相夫人がそこに立っていた。

「どうぞ」
ことんとゼロの前にお茶が置かれる。ゼロもすっかり馴染みとなっている緑茶だ。夫人はゼロにお茶を出すと、息子の前にも置いた。ゲンブは母が追加で持ってきたおにぎりを、美味しそうに頬張っている。
「この度はウチの愚息がご迷惑をおかけしまして。ご心配なさらなくてよろしいんですよ? この馬鹿が勝手に怪我したんですから」
「母さん!?」
がっくりしている息子の前で、母はほほほと笑っている。
「……父がお世話になりました」
「いえ。当たり前の事をしただけです。もっと早くに連絡を寄越せとヴァルトシュタイン卿にはお灸をすえておきましたわ」
「はあ」
神聖ブリタニア帝国皇帝を守護する騎士軍団ナイトオブラウンズの、その最強リーダーヴァルトシュタイン卿に説教をした、ところころ笑う女性を前にゼロは頷くほかない。
「おばさま!」
軽やかな声がして、扉が再び開かれる。
「神楽耶ちゃん、レディはノックくらいするものよ?」
「ごめんなさい……まあまあまあまあ、ゼロ様!」
「神楽耶殿」
すっと立ち上がり礼をするゼロに、神楽耶は、ぽおと頬を染めあげる。
「この度は愚兄がご迷惑をおかけしまして」
「…………神楽耶まで……」
当然でしょう!と落ち込むゲンブを神楽耶は振り返る。
「ゼロ様を危険な目にあわせるところでしたのでしょう? 格好つけるなら最後までしっかりおやりなさいな。あ、おばさま、おじさまがお呼びでしたわ」
それは行かなくては、と首相夫人はゼロにごゆっくりと声をかけて神楽耶と共に部屋を出ていく。嵐が去ったあとの静寂に、しばし唖然とした表情をしていたゼロだ。
「……なんか、凄いな」
「あー……はい。いつもあんな感じなので」
父親の政治行動には、あの母ががっつり組み込まれている。それでも、あんな風に笑うまでにはそれほどの大きな壁を乗り越えて来たのか。息子2人を敵国の騎士として命を投げ出せと、そう言われた国の皇帝や皇子に向かい、朗らかに何もなかったかのように振る舞うには、相当強くなければ無理だ。

「……それで……お前大丈夫なのか、傷」
「大丈夫ですよ?」
トレイの上の物を全部平らげ、ゲンブはごちそうさまと手を合わせる。
「貸せ、片づける」
「すみません」
てきぱきと食器の乗ったトレイをワゴンに乗せて廊下へ動かし、戻ってきたゼロはゲンブのベッドの脇に立つと、おもむろにベッドへと上がってくる。
「殿下!?」
「寝る。全然眠れなかったんだ。お前責任とれ」
着ていた上着を椅子の上に放り投げ、ゼロはゲンブの横に滑り込む。
「……襲いますよ?」
「襲ってみろ。襲えるのであればな」
「俺が出来ないと分かってて、言ってますね?」
「なんだ、出来ないのか」
「…………殿下、本当に寝るんですか?」
「寝る」
ゲンブの怪我をしていない左側にゼロはもぐり込むと、温もりにすり寄る。すっかり馴染んだその暖かさに、ゼロは小さく息を吐き出した。このまま黙っていないと、泣き出してしまいそうになる。ゲンブも何も話さず、ゼロの細い体を腕に感じたまま、動かない。しばらくそのまま互いに黙って天井を眺めていたが、本当に隣で寝息が聞こえ始めて、ゲンブは「マジか」と小さく呟く。
何だろう、この拷問。
ひきつる傷を庇いながら、姿勢を変えてゼロの寝顔を眺める。
「信用されてんだか、されてないんだか」
眠るゼロの瞼に、唇を押し当てる。
───隣にいたいという願いは、こんなにも切ない。


スザクがブリッジへと戻ると、ルルーシュが一人備え付けられた椅子に腰掛けている。
「……ルルーシュ?」
あまりの静かさに、のぞきこんだスザクは、居眠りをしているルルーシュに笑みをこぼす。暖かな日差しの中で、柔らかな光がルルーシュを包み込んでいた。ルルーシュも肩の荷が下りたのだろう。ゼロが行方知れずとなってから、一人で必死になって戦っていたのだ。コーネリアが加わってからは少し落ち着いたものの、それでも負担が大きく変わるようなことはなかった。
「ルルーシュ、風邪引くよ? 部屋戻ったら?」
「……うん」
腕を伸ばしてくるルルーシュに、今度は笑みを大きくしてその細い体ごと抱き上げた。
各個人に用意された個室へと向かう途中、驚愕の表情を浮かべるジェレミアと出会ったが、スザクの腕の中のルルーシュの眠る姿に、今度は非常に悔しげな顔になっていた。ジェレミアの「主命」の態度にずいぶんやきもきしていたスザクがちょっとスッキリした瞬間だ。
楽しげに歩くスザクに、腕の中のルルーシュが低く笑う。
「ルルーシュ、起きてたの?」
「ジェレミアに妬いてどうするんだ」
「だってさ……」
ルルーシュに再会してからというもの、ジェレミアは「わたくしがお守り申し上げます」と体全体で表現しまくり、スザクをとにかく目の敵にしていた。ゼロが行方不明の時期であった為、今まではゲンブにはそれが及ばなかったが、それも時間の問題であるのは確実だ。先程もイカルガに移動するゼロに付いていくとごねて、ゼロから「付いてこなくてもいい」とばっさり切られて、相当落ち込んだ様子であったが、きっと懲りていない。
「……お前こそ、どうしてラウンズの制服なんだ……」
「これ? ラウンズの皆で揃えようって事になったんだけど……イヤだった?」
ゲンブとルキアーノ以外は、全員表に出て動かなければならない状態だ。その為、こういう格好をしていた方が公式の場では、何かと動きやすい。
「スザクは……父上の騎士なんだと、」
「ああ……そうだよね」
スザクはルルーシュを降ろしてベッドに腰掛けさせると、自分も横に座った。
「もう少し落ち着いたら、陛下に申し出てみようかと思ってる。陛下には僕らを任命した記憶が無いらしいんだ。反対に謝られちゃったよ」
「ゲンブも解任を申し出ればいい。そうしたらゼロの騎士になるんだろう?」
うん、そうだねとスザクはそこで小さく笑い、ルルーシュの頬にキスをした。






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