月なき夜にはあくなき夢を 13.

君の罪は僕の罰  第二章 「月なき夜にはあくなき夢を」 13.














男に睨まれ、マオは仕方なくヘッドフォンを外した。おかげで遮断していた外界の世界から、容赦ない雑音が飛び込んでくる。とはいっても、開け放たれた窓から時折鳥のさえずりが聞こえるだけだ。だが、マオにとっては「必要以外の音」は全て雑音となる。
「……薬の方はどうなっている」
「別に。順調だよ」
「決められた以外のことにまで手を出していると聞いているが」
チッ、と舌打ちをして、マオは相手の男の顔を見る。名など知らない。ただ通名として皆が黒のキングと呼んでいる男だ。マオはこの男とはあまり接触したことはなかった。白のキングと呼ばれている男がいて、そちらとばかり取引をしていたからだ。

───あの人は好きにさせてくれてたのにな。

だが、白のキングと呼ばれた男はもういない。
最近になってこの界隈で名を聞くようになった、シュナイゼルという男にTOPの座を奪われたからだ。
その業界では絶対に揺るがないであろうと言われ、君臨していた男であったが、崩され方は無惨であった。しかし、どこからも文句の出ないやり方で、シュナイゼルはその座に現在座っている。おかげで、今、誰も手が出せない。なにしろ、シュナイゼルが一体何を考えているのか誰も分からないのだ。富、栄誉、名誉、権力。そういったものに対して、シュナイゼルは涼しげに笑ってみているだけだ。何を提示したところで、やんわりと突き返されれば取引など一体誰が出来るというのだ。
「全く、難儀な男が来たものだ」
「……その弟がさ、学園に来てるよ。少し前に転校してきたんだ」
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
「新薬をさ、使ってみようと思ってるんだよ。モルモットに丁度いい。ちょっと厄介な奴が隣にいるけど、まあ何とかなるんじゃないかな」
「脅しに使えるのか?」
「使えると思うよ。妹もいるしね」
浚って脅しに使いやすいのは断然妹の方だろうと思うが、マオにはルルーシュしか目に入っていない。
───ルルーシュがそう仕掛けたからだ。
「ふむ。よし、それでうまくいったら、研究所はお前の好きに使っていい」
当然だ、偉そうにしやがってと心の中で呟きながら、マオは部屋を出る。すぐに取り付けられたヘッドフォンは大音量の曲を流し、外界を遮断する。
あの声を録音しよう。あの瞳も欲しい。



「これだ。確認しろ」
ぞんざいな態度でカフェテリアのテーブルにルルーシュがチップを放る。それを見事にジノがキャッチした。
「……あんたね」
「なんだ、仰々しく手渡せば良かったのか? さも重要ですと言っているようなものじゃないか」
ルルーシュは足を組み替え、鼻で笑うその態度に、カレンが毛を逆立てて怒っている。二人の間に散る火花さえ見えそうで、スザクが苦笑しジノが肩をすぼめてみせた。
「ここまでカレンと合わないのも珍しいな」
「合わせる必要などない」
「それはこっちの台詞よ! あんたの妹二人はあんなに可愛いのに」
「ナナリーとアーニャが可愛いのは当然だろう。何を言っているんだ」
「……ホントいちいち腹立つわね、あんた」
このままではどうにもならないと、ジノはスザクに資料を手渡す。
「そっちほどじゃないけどな、一応この辺りのめぼしい奴らの名簿だ。次期候補程度まで調べた」
「うん、見てみるよ。あの……さ、ただ気になるだけなんだけど、マオって」
その名がスザクから出た途端、ジノとカレンに同時に視線を向けられ、視線の意味を正しく判断したスザクはただ黙って頷いた。

やっぱり怪しいんだ。

ジノが端末でチェス盤を表示させる。
「キングの黒と白。最近白が消えた。おかげで盤の半分が人手に渡る。ナイトは大わらわだ」
「砦のルークは何をしていたんだ?」
ジノはカレンの端末を横において、それにもチェス盤を表示させた。そして、カレンから自分の端末へと指を動かす。
「こっちから無関係のルークがいきなりチェックメイトを宣言したんだ」
「完全にルール無視だな」
「チェックメイトをしたのは君の兄君だよ」
これにはさすがにルルーシュも苦笑せざるをえない。あの兄のやらかすことは意味不明なものが多いが、ここまでおかしいとは。
同上盤の駒を動かす手間を惜しんで、新たに足すなんて一体誰が考える?
チェスはさっぱり分からないスザクにも、これがとんでもないことだと言うことは分かる。
「それで通用する?」
「それが通用してしまったんだ。ポーンもナイトもビショップも全く動けなかったらしい。いつの間にか、クイーンは買収されてたよ」
おかげで、白マス部分は現在シュナイゼルが握っている。
「黒の方はまだ落ちていない。そして、例のものはこっち側」
なるほど、とルルーシュはその盤を眺める。
「模倣犯が出たんじゃないか?」
ごもっとも、とジノとカレンは苦笑する。とんでもなく簡単に見える為、皆がシュナイゼルのマネをしようと動いた。
「だが、実はこれは綿密に張り巡らされた計画があってのことであり、迂闊に手を出すと窮状に陥る羽目になる、とどうせこういう事だろう? その連中は全部兄上の傘下に……」
にんまりと笑うルルーシュに、ジノは「その通りだ」と項垂れる。止めておけばいいものを叔父が手をだし、現在資産がシュナイゼルのところに流出中だ。

「すごいね、ルルーシュ。分かるんだ」
「あのなあスザク。あの兄上だぞ? お前もそろそろあの人のやり方を理解しろ。優しそうな顔をして、とんでもないサドだ」
そうかなあ、とスザクは首を傾げる。なにしろスザクにとっては、優しい兄でしかないのだから。
そんなスザクを見て、不機嫌になったルルーシュだが、ジノが持ってきた資料を見て先程の、半分詐欺のような乗っ取りの経路に知らず笑みがこぼれる。その横顔を見て、スザクはやれやれとため息をつく。
「面白そうだと思ってるね?」
「ああ。隠密行動よりもこっちの方がいいな。兄上もこれをやらせてくれればいいのに」
そうは言っても、内部侵入するポーンが必要であったということだろう。そして、現在その役割をこうして果たそうとしている。
「それで? 向こうから見ているヤツはどこに位置しているんだ?」
ルルーシュの視線の先にいるのはマオだ。こちらを伺うように立っているのが見え、これにはカレンの顔色も変わった。
「! あんた何したのよ……」
マオがこんな大勢他人がいる場所に顔を出すことは、今まで殆どない。社会適応性が欠落しているとして、教室はおろかカフェテリアにも顔を出さなかったのだ。おかげで、足取りを掴むのにも苦労していたというのに、そんな相手がのこのこ姿を現すとは、到底信じられない。
ルルーシュは笑みを僅かに変えると、髪をかき揚げる。
「オレの魅力におちたんだろう。罪だな」
「あんた、よく恥ずかしげもなくそんなこと言えるわね……」
馬鹿じゃなの?と言っているカレンの後ろで、スザクも瞳を細めてマオを見る。

違うよ、カレン。本当にルルーシュに捕まっているんだ。










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