月なき夜にはあくなき夢を 26

君の罪は僕の罰 第二章 「月なき夜にはあくなき夢を 26.」





確かに間に合わなかった。
ナナリーの暴走を止めることは、間に合わなかったのだから。

あたりに散らばった実験用であろう器具はすべて粉々にされ、足の踏み場もない部屋の真ん中でナナリーが立っている。そのナナリーの横では胎児のように体を丸めた体勢のアーニャが宙に浮いていた。
「ナナリー!」
呼びかけたルルーシュの声すらも届かぬのか、ナナリーは片手を上げて未だ部屋を破壊し続けている。突風が吹き荒れる度に、ナナリーの背にも翼が現れていた。

ヴァンパイアという先ほどの信じられない言葉がカレンの頭の中で繰り返される。
確かに人間ではないのかもしれない───だが。

「ナナリー!」
ルルーシュが妹の体を抱きしめて、ようやくナナリーは周囲を見回した。そして部屋中を舞っていた風もぴたりと止まる。
「……おにい、さま……スザクさん……」
スザクがアーニャを抱きかかえ、床へと下ろす。意識は戻らないが無事であることは間違いない。アーニャと呼びかけるスザクの声に、わずかだが睫が揺れた。
「この人達……アーニャ、さんの髪を……切ったんです……」

───大事なアーニャを傷つけた。それこそがナナリーの怒りに火を点した原因だ。

「ナナリーは? 何もされていないか?」
「……血を抜かれたみたいです。でも大丈夫です」
ナナリーのすぐそばの床には確かに血液を摂取したと思われる試験官が転がっていたが、例外なく粉々にされている。おそらく『普通ではない形態』に興味を示してのサンプル摂取だったと思われるが、これでは何もわからないままだ。ただナナリーの怒りを助長したに過ぎない。そして同時にルルーシュとスザクの怒りも買った。これでここに訪れる未来が決定したのだ。

全部ぶち壊す。

ふらりと足下から崩れおちそうなナナリーをルルーシュが支えた。
「ナナリー」
「……おかしいんです……体が……」
「力を立て続けに使ったからだ。ナナリーは今まで使ったことがなかったから、体が追いついていないんだ」
このまま暴走していたら、どうなっていたかわからない。
ナナリーは一度V.V.の闇によって光を奪われている。その影響がどこまでナナリーの体に及ぼしているのかは未知の世界になる。わからないからこそ、大事にしてきたというのにここにきてこんな事になるとは、これもV.V.の念がさせることなのか。ルルーシュは軽蔑にも似た眼差しのまま、部屋を見回す。その視線だけで動きのあるものは、全部止められた。
だがスザクは分かっている。ルルーシュが見ているのはこの部屋にいる人間ではなく、憎いただ一人の影であることを。
「ルルーシュ、とにかくまず2人を連れていこう」
「ああ……そうだな」
訳の分からない薬を使われたかもしれない2人の体が一番の心配だ。それに何よりもV.V.の影響を受けているとしたら───光の浄化が必要になる。シュナイゼル達と一緒に神楽耶も来ているはずだ。
「急ごう」
「ああ」
そこでルルーシュとスザクは、ここにカレンもいることに気付く、というよりもカレンが「ねえ!」と声をかけたことで存在を思い出したというところだ。
「一体、何がどうなのよ! 説明しなさいよ!」
「……ちっ、こいつがいたか。だから上にいろと言ったのにとことん使えない奴だな」
「何ですって!」
外へ出ることなどルルーシュ達には一瞬で出来るのだが、カレンがいてはそれは無理だ。
「だから説明してよ! ナナリー達は大丈夫なの? ここはこのままでも、」
「煩い。全部終わったらここは壊滅状態にしてやる。お前がいるから今は出来ないだけだ。早く移動するぞ」
スザクがアーニャを抱きかかえ、ナナリーの体への負担を最小限にしようと横抱きにルルーシュが抱え直す。

「ルルーシュ! 後ろ!!」
「え?」

スザクの叫びに振り返る間もなく、ルルーシュは後ろから伸びてきた腕に捕まった。その手に握られているのは鋭い刃を持つナイフだ。握っているマオの腕は細く、何もなければ簡単に蹴り飛ばせばいいのであるが、ルルーシュは意識朦朧状態のナナリーを抱え、同じくスザクもアーニャを抱えている。その上後ろにはカレンもいる。
しかもナイフはサバイバルナイフだ。一見しただけでもその刃が堅牢性に優れ、素人が振り回しただけで容易に切れることは間違いない。
「マオ! あんた何してるのよ!」
「女、黙れ」
危険な目にあっているのはどう見てもルルーシュの方であるというのに、カレンは反対にその人質から黙れと言われる。
「なん……で」
「変に煽ってどうする。考える頭を持て。胸ばかりに栄養与えすぎじゃないのか」
刃先をルルーシュの首にあてたマオはこのやりとりに、ケラケラと笑いだした。
「いいなあ、やっぱりあんたいいよ」
「お褒めに与り光栄だな。だがオレは拒否させてもらおう」
「拒否権はないよ」
ルルーシュは自信満々な物言いのマオに対して、不敵な笑みを浮かべてみせた。
「下郎如きがこのオレに権利を与えるだと? 笑わせるな」
完全に軽蔑しきった色を湛えたルルーシュのアメジストに、マオの顔が見る見る歪んでいく。自分で煽るなと言っておきながらとカレンが悪態をつく前に、ルルーシュが動いた。

「スザク!」

マオが仕掛けを動かすのと、ルルーシュがスザクに向けてナナリーを力で飛ばすのと同時であった。
アーニャを片腕で支えているスザクが、もう片手でナナリーを受け取る。ふわりと受け止め、スザクが顔をあげたその時にはもう自分の半身の姿はなかった。
続いて起こる爆音と、揺れる部屋、崩れ始めた壁。
「……ルルーシュ……っ!」



とにかく部屋を出ようと歩き出すスザクの後ろをカレンは黙って歩く。片腕に一人ずつ妹を抱え、スザクはまっすぐ前を見ているだけだ。
「……あの……私、邪魔だったの?」
「一番悪いのはあいつらだから、君に非はないよ」
だが、カレンがいなければ何のためらいもなく部屋を壊せば良かったのだから、邪魔だったと言えば邪魔だったのかもしれない。ルルーシュがナナリーを、スザクがアーニャを守ればそれで終わったのだから。
「……ごめんなさい」
「もう過ぎたことをとやかく言っても仕方ないよ。それより早く外に出よう。ルルーシュが移動している」

後ろから爆音に追いかけられるようにして外に出ると、外は外でとんでもない事態になっていた。
「おい、御神体」
パッとスザクが振り返ると神楽耶を抱いたC.C.が立っている。
「ナナリーとアーニャか」
「V.V.の闇にあてられた可能性があるんだ」

───御神体?

C.C.の腕から降りた神楽耶がちょこちょこと走り寄ってくる。人形かと思われた巫女の格好の女の子が動くことに、カレンは言葉も出せないままだ。
一体何が起きているというのか。
「ルルーシュはどうした」
「……捕まった。たぶんわざと捕まったんだろうと思うけど、相手がまずいんだ。ルルーシュの罠に捕まったままの状態だから……」
「あのオレ様坊やのフェロモンに捕まっているのか。全くっ!」
C.C.がそう呟いた瞬間に、後方から爆発音が響きわたった。
「あれ兄さん達?」
「ああ。薬の流通を切っただけでは腹の虫が治まらないらしい。思っていたよりもあの馬鹿の残留思念が強いんだ。ちょっと待て御神体。お前に渡さなければならないものがあるんだ」
すぐにでもルルーシュのところへ行こうとしているスザクをC.C.が止め、小さな手をナナリーにかざしていた神楽耶がスザクを仰ぎ見てから、所在なさげに、立っているカレンを見た。

「剣をお持ちですね?」




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