月なき夜にはあくなき夢を 28.

君の罪は僕の罰 第二章 「月なき夜にはあくなき夢を 28.」









マオの振り上げられたナイフはルルーシュの顔の真横に突き刺さる。
「焦るな、馬鹿が」
妖しく笑うルルーシュに下からのぞき込まれ、体が一瞬硬直したマオだ。その一瞬の隙にルルーシュが巧みに罠を仕掛けているとは気付くよしもない。その罠のおかげで目の前の獲物をナイフで切り裂いてやろうとしていた自分の行動すら曖昧になる。そんなマオの様子に、ルルーシュは少し安堵した。
(効きは悪いとはいえ、あれだけの薬剤投与はさすがにマズい)
『媚薬』だの『催淫剤』だのという物は今まで全く無縁であった。このルルーシュがそんなもの必要とするはずがないのだ。指一本動かずとも、相手が勝手に夢中になってむしゃぶりついてくる───という環境を自ら生み出せるのに、一体いつ必要だというのか。
(しかし、こういうものも少しは体験しておくべきだったか)
ルルーシュの普段の能力であれば、ここでマオを吹き飛ばすことくらい簡単に行える。だが実際はナイフを避けることが精一杯になってきているのだ。未知の物質を体内に取り入れただけのことでここまでとは、少し動きを制限出来ただけでも良しとしなければならない現状に頭痛もしてくる。その上、こいつを簡単に殺ってしまう事も出来ない。ルルーシュ達には無用な人間だが、カレン達には「証拠」として必要な人間なのだ。
(結果的に巻き込んだのはこちら側だったからな……)
思念の残りかすがここまでとは、あの老いぼれは本当に厄介な存在だと改めて思う。そして、もう一つ厄介なものが目の前だ。ちらりと目だけ動かして確認しても、マオがナイフを離す様子は見受けられない。ルルーシュの目下検討中の事案はマオの握るサバイバルナイフをどうやって放棄させるか、という事だ。わずかでも触れれば怪我をするだろう。これ以上体力と力を消耗することは出来ない。
「……仕方ない」
マオの目の前でルルーシュの唇が美しく弧を描いていく。


神楽耶が手をかざすと、剣が光を帯びたのがカレンやジノにもわかった。
「これでいいはずです」
スザクがそれを握ると、一方向から邪気のような嫌な感じの空気を感じ取った。このままでは忌々しき事態を巻き起こすのは確かめずとも分かる。
「悪いな御神体。これはお前にしか出来ない事なんだ」
「うん、大丈夫だと思う」
頷くスザクに向かって、C.C.に抱かれたまま神楽耶が両腕を伸ばす。小さな手が頬に触れた。
「……辛い日々を思い出させることになって……」
「大丈夫だよ神楽耶、あの頃と今は違うから。ルルーシュを連れて来る。ナナリーとアーニャを任せたよ」
走りながら振り返ると、スザクに向かってまだ神楽耶が手を振っているのが見えた。

散々神楽耶を悲しませたのに、V.V.はまだ足りないとでもいうのだろうか。

どこから何を聞いたらいいのか分からないのだが知りたいという顔のジノとカレンに、スザクは隠す物は何もないとばかりに本題に切り込んだ。
「カレン、君のあの写真。あれは僕だよ」
当然、唖然とするしかない2人だ。
「だって! あれは、」
「僕が人間だった頃だ。中学生の大会で優勝した時の写真だよ。藤堂先生と凪沙さんがいつも応援してくれたんだ」
試合というといつも凪沙が特大おにぎりを持ってきてくれた。多少歪ではあったけれど、心を込めて握ってくれたそれは、懐かしく切ないスザクの思い出の味だ。
「人間だったって……」
ヴァンパイアだとそう言っていたルルーシュ。
「僕らは卵で産まれる。一つの魂が卵の中で2つに分裂するんだ。僕とルルーシュ、ナナリーとアーニャのようにね。互いに足りないものを補うように成長して、ある時、また一つの魂に戻る。大人になるんだ」
でも、もう誰も大人にはなれない。
「決められたルールがあるんだけどね、その中の一つでも守れない場合はもう融合出来ない。だから僕たちは背に翼を片方づつしか持てない。大人になれば両羽揃う」
「あ…………」
カレンは見た。あの研究室で2人の背に片方ずつ翼があるのを。
「全部壊したのは僕らの父さんの兄。叔父さんになるんだけどね、その人はどうしても未来を見ることが出来なかった。それで世界を壊そうとして、利用されたのがさっきの小さな神楽耶。死ぬ間際に母さんが助けて、父さんがこの剣に封じて、守るために建立されたのが枢木神社だよ」
「何だよ、それ……」
封じ込まれたのは神楽耶だけではない。神楽耶の影響を受けて、力を持ってしまったスザクもだ。
「父さんは僕を守り、時が満ちたその時に僕を枢木家の人間として誕生させたんだ。力を持っているから崖から落ちてもケロッとしてるし、おまけに神剣には触れるしって事で、御神体扱いだったんだ。友達もいない、両親にも疎まれてさ」
早足で歩いているスザクに対し、ジノもカレンもほとんど全速力の状態だ。必死で追いつこうとしている上に、信じていいのかどうなのかわからない話を聞かされて、2人ともどうしたらいいのか。
「自分が何者なのかわからない時に、ルルーシュが僕を見つけたんだ。そこで僕は自分がルルーシュの魂の半分を持つものであり───産まれてきてもいい存在だったと知ったんだ……」
何もかも知ったその時、それこそがスザクがこの世界に居場所を見つけた瞬間だった。そのルルーシュと今離れてしまっている。気配をずっと追い続けているから、見失う事は絶対にありえない。少し香りに変化があるのだけが気がかりではあるが、こちらを片づけなければ向かえなかった。
本当ならばもっと簡単に片づけられた計画であったが、計画である以上、土壇場になって変わるのは仕方ないことではある。
(仕方ないけど……だからといって納得は出来ない)
そのままスザクは黙って歩き続ける。
後方からの爆発音が一際大きく響きわたる。いつだって穏やかに笑っている兄たちの普段からは想像出来ないほどの怒りをスザクも感じていた。
V.V.の残留思念が今回の騒ぎの原因だ。あの時全部消したはずなのに、人の心というものはそれほどまでに強いのだろうか。

神剣に引っ張られるようにしてたどり着いたのは、木々の間にぽかりと空いた小さな広場だった。スザクはその空間の真ん中を見つめる。確かに「嫌な気」が留まっている。
「そういうことか。前から何かを設置しようとすると事故が起きていたんだ」
周囲を巡らせていたジノが納得したように呟いた。
ちょっとした憩いの場所にするのにスペース的に大きさも位置も申し分ない場所であった為、過去に何度も計画されたのだが、何故かすぐに頓挫していたのだ。
「……皆が楽しく集うなんて一番嫌っていた人だったからね。ええとちょっとごめん、少し離れてくれる?」
スザクは鞘から剣を抜く。
(覚えているかな?)
キラリと輝く刃は、まるで研いだばかりのようで、カレンは目を見開く。

『いいか御神体。あの舞を舞え。結界を張り、封印出来るのはあの舞だ』

(だから僕にしか出来ないのか)
一度深呼吸をしスザクが剣を握りしめると、左足が自然と前に出た。











ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 20

面白い 面白い 面白い
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)