月なき夜にはあくなき夢を 30.

君の罪は僕の罰 第二章 「月なき夜にはあくなき夢を 30.」







一瞬反応が遅れたとはいえ、ナイフが床を滑っていくのとスザクの蹴りによってマオが飛ばされるのは、それでもほぼ同時であった。少なくともその場にいたジノとカレンにはそう見えた。
「ルルーシュ!」
「あ、ああ何とか大丈夫だ。ったく、何を飲まされたのか……」
気だるそうに髪を掻き上げながらルルーシュがゆっくりと体を起こし、寝台の隅に押し込まれていた薬瓶を取り出した。
「帰ったらカノンに調べさせよう。こいつら今度はこれを新薬として流すつもりだったんだ」
ぶつぶつと文句を言っていたルルーシュは、今度は自分を見ているスザクとカレン、ジノを見てにやりと笑う。
「どうした?」
「ルルーシュ……あれ、演技?」
甘えた声と仕草で次を強請り、喘いでいた姿はどう見てもマオに完全に堕ちたようにしか見えなかった。だからこそ、スザクは瞬時に反応出来なかったのだ。
「スザクも騙せたのならば完璧だったんだな」
ルルーシュが向き合っているこの状況の中、ナイフをどうにかしてしまわなければいけないというのが最重要課題だ。色々考えたのだが、結局ルルーシュ一人ではどうにもならない。普段とは全く違う自分の体に辟易しながら、どうにかこうにかマオをやり過ごしてきたが、それも限界だ。さらに薬を飲ませようとすることも止めなければならない。これ以上の投与では自分がどうなるのか想像も出来ないのだ。おそらく通常の只人ならば、数滴程度で効果が出る代物なのだろうと思う。だがルルーシュにはそんなもの効くわけもなく、結局どれほどの量を飲まされたのか定かではない。
次第に体もおかしくなってきたその時、ここまで押し寄せてきたのはスザクの発した静寂の波だった。
「終わったら絶対にスザクがここに来ると分かっていたから、そのタイミングに合わせて効果が出始めたように振る舞ったんだ。疲れた……」
マオが「見せつけるのにいいタイミングだった」と笑っていたそのタイミングは、ルルーシュが仕込んだ罠だったという訳だ。ルルーシュはスザクの気と香りが近づいてくるのを必死で感じ取り、完璧な計画を練って薬が効いた演技をやりとげた。それはあまりに素晴らしく、味方ですら騙されたのだ。壁に叩きつけられて意識が朦朧としていたマオがようやく我に返り、ベッドの上で優雅に足を組み、面白そうな顔で自分で眺めているルルーシュの姿を見て驚愕を隠せないのは仕方ないことだろう。
あれだけ乱れた様子を見せていたというのに、いったいこれはどうしたことなのか。その上、現在ルルーシュがしなだれかかっているのは、見せつけるべき相手である予定だったスザクだ。
「お前、っ!」
「罠にかかったのはどっちだったのか。笑えるなマオ」
フハハハハハハと高笑いするルルーシュは、さっきまで自分が組み敷いていた姿とは全く違う。だが近寄ろうにも、すでにジノとカレンにがっつり腕を掴まれているため、動くことも出来ない。
「あんたには色々聞きたいことがあるんだ。大丈夫、拷問なんてしないさ。ただ、自分たちが開発していた自白剤でも飲んでもらうだけだからさ」
「自分の体で効能がわかるんだから一石二鳥よね」
抵抗しようにも、まるで動かない腕にマオは真っ青になっていく。ルルーシュだけを目的に動いていた間は本当に「獲物」しか見えていなかったが、ここで現実が押し寄せてきたのだろう。外での爆発音が、研究所の破壊によるものであると理解すれば、この後の展開はイヤでもわかる。
「このバカ引っ張っていくから」
ルルーシュが未だ半裸状態であることに気を使ってくれたのだろう。そう言ってカレン達が消えたあと、こちらも状況が変わる。
ルルーシュがその場で息も荒く倒れ込んだのだ。荒い呼吸の音がルルーシュの唇から漏れている。
「……え、ルルーシュ?」
「スザク……くるしい、あつい……」
すがりついて見上げてくるルルーシュの顔はすでに上気し、うっすらと汗ばんでいた。
「ルルーシュ、本当は薬効いていたんじゃ……」
「……お前以外に……触れさせてたまるか。こっちは必死で……」
何とかしてくれと強請るように悩ましく身体をくねらせて、ルルーシュがスザクを見上げる。ルルーシュが身体を動かす度に、いつもよりもかなり濃厚な甘ったるい香りがスザクにまとわりついた。
本当ならばこのままルルーシュを連れてここから出なくてはいけないのだ。だが、この様子では歩くことすらままならないだろう。抱えて歩くのが通常であるため、別段それについては困らないが、後始末などを考えるとルルーシュも動けた方がはるかにいい。スザクもそう頭ではわかってはいるのだ。
「スザク……早く」
膝の上に乗り上げんばかりにすり寄るルルーシュはほぼ半裸状態。このナリであのマオにすがっていたのかと思うと不可抗力であるのは間違いないとはいえ、スザクにどうしようもない嫉妬が押し寄せてくる。
「……スザク、お前今凄い目をしているぞ?」
ツツツ、とルルーシュの細い指先が頬を辿る。
「そんなに嬉しそうに言わないでよ」
「これが嬉しくない訳がないだろう?」
一番愛しい男が嫉妬してくれているのだ。たまにはこんなシチュもいいかもしれないとは思うが、勝手に熱く疼くこの身体は忌々しく感じるだけだ。コントロールされてスザクを欲しがるのはルルーシュも本意ではない。
「……スザク、オレを早く元に戻せ。それに……嫉妬しているのはお前だけじゃないんだぞ」
そう言ってルルーシュはぷいと横を向いた。ルルーシュが必死でマオと攻防戦を繰り広げている間、スザクはあの女と一緒にいたのだ。何という腹立たしさ。演技はマオ対用ではあったが、実はカレンに対してでもあった。
あんな女に、このオレが薬に負けたなどという失態を見せてなるものか!
溢れんばかりの妖艶さを纏いながらも、拗ねる仕草の可愛らしさにスザクは苦笑するしかない。ルルーシュはスザクの上にのし掛かると、火照った身体を押しつけるように身体をくねらせた。ダイレクトに互いの熱が伝わってルルーシュの唇が弧を描き、それがまたこちらには堪らない艶を一気に与える。
どちらにせよ、魂の片割れ同士の惹かれあう力にスザクは勝てるはずもない。
「……君には勝てないよ」
「何だ、勝つつもりだったのか?」
ルルーシュは舌の先で唇をぺろりと舐める。完全に僕の方が食べられる側の気分だなとそう思いながら、スザクはルルーシュの細い腰へと手を伸ばした。













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