月なき夜にはあくなき夢を 34.

君の罪は僕の罰 第二章 「月なき夜にはあくなき夢を 34.」









猛スピードで走ってくるカレンを、ジノが驚いたように慌てて受け止めた。
「一体どうしたんだよ」
何でもないとカレンは首を横に振るが、どう見ても何かあったようにしか思えない。聞き出そうとするジノの言葉を遮るように、カレンはポケットから小さなチップを取り出した。
「これ、預かったから。今回のデータだって」
「……ああ、うん」
ジノがチップを差し込んで端末を立ち上げている間、カレンはぐるりと周りを見回す。騒ぎは校内だけではもう到底無理な状態で、警察らしき人間も見えている。救急隊員も到着しているようだ。生徒で関係していたのはマオ一人のみであった。ほかの生徒たちが何も分からず不安げな様子固まっているその中から、一人の少女が半分ふらつきながらもカレンに向かって歩いてくる。カリーヌであることはすぐに分かった。
「カリーヌ、あなた大丈夫なの?」
何らかの薬が使われたようだと聞いていたカレンとしては容態が心配だ。カリーヌが貧血で倒れたということが今回の騒ぎの発端であり、その貧血も薬で操られた代物であると聞いている。
「……はい、あのお姉さまが助けてくださったと聞いて」
「え? 違うわよ。あなたを助けたのはナナリーとアーニャよ」
途端に、カリーヌの方が不思議そうな顔になる。
「誰ですか?」
「誰って、あなた……」

『僕らは本来ここにいてはいけない存在なんだ』

「……そんな。でも」
立ち尽くすカレンに気付いたクラスメートたちが走りよってくるのだが、彼女たちも「そんな子知らない」とカレンに告げた。
「……誰? ナナリー? アーニャ?」
「ほら、お兄さんたちも一緒に転入してきたでしょう!? 黒髪のいけ好かない美形と栗色のくせっ毛の二人! カフェテラスでもいちゃついていたじゃないの!」
その場の全員が顔を見合わせて首を横に振る。
「やだ、そんな二人がいたなら大騒ぎよ」
「ねえ?」
そんな美味しいネタになりそうな二人が目の前にいたら、放っておくはずがない。くすくすと笑う友人たちを前にカレンは唖然とするしかない。あれだけ皆も騒いでいたではないか。談話室で妹二人を取り囲んで兄たちの話を聞き出していたのはこのメンバーなのに。
「……嘘」
カレンは身を翻すと再び走り始め、その後をジノが追った。


あれはほんの少し前だ。

「帰る……?」
呆然と、カレンはただ呆然としたまま、言葉を繰り返した。
「帰るの?」
その目はスザクに向けられており、ルルーシュは視線を遮るようにカレンの前に立った。
「帰るに決まっているだろう!」
「ルルーシュ」
怒っているのに泣いているような顔をするルルーシュをスザクは抱きしめる。そのスザクからカレンは目が離せずにいる。
ずっと写真の中にあった翠碧の瞳がここにある。想像と空想の中の人物が目の前にいる。
「わたし、まだ聞きたいことがたくさん、」
「カレン、僕らは本来ここにいてはいけない存在なんだ。全てが終わった今、僕らは戻らなくてはいけない」
時から引き離されて存在している───もう人間ではない。
「今まで剣を守ってくれて有り難う」
ルルーシュを抱きしめるスザクの隣にナナリーとアーニャが寄り添った。薄闇の中で浮かび上がる四人は、先ほども思ったのだが絵のようであり、ここでカレンはようやく思い知った。
絵の中に住む人たちなのだ。どうやってもその中に自分は入っていけないのだ。
『あの子は神の気に入り子だったから』
その言葉を思いだし、カレンは背筋をぞくりとさせる。そう、枢木神社には御神体がない。誰かが連れていってしまったから───誰かが。
「あ、あの、これ! あなたが持っていた方がいいと思うから!」
カレンが差し出した写真をスザクは戸惑いながらも受け取った。


「おい、カレン!」
辿り着いた先はスザクが舞っていた空き地だ。そこに残されていたものを見て、カレンは小さく声をあげた。
神剣の柄と鞘が並べておいてあった。
「刃がない……」
「これじゃないのか、ぼろぼろに落ちてる」
スザクが舞う為に鞘から抜いた時、剣は美しく研いだばかりのような刃を持っていたはずなのに、そこには錆び付きぼろぼろになった金属のかけらが落ちているだけだ。
「……ねえ、ジノは? あの人たちを覚えてる?」
「俺は覚えてる。カレン、実はマオも全くあいつらの事を覚えていないんだ」
「えっ!?」
ルルーシュを欲しがり、本人をあんな目に合わせた本人は、ルルーシュのことを覚えていなかった。自白剤を飲ませたから虚言を吐くことなど到底無理な話だ。それなのにマオは全く覚えておらず、あげくに今回の事は全てジノたちの手柄によるものであるという話になっているのだ。カレンは驚きで言葉にも出来ずにその場に立っているしかない。
「……おかしな連中だったよな……カレンは良かったのか?」
何せジノが言い表すところの「初恋の君」であっただろう、あの写真の本人だ。少しだけ俯いたカレンは次に笑顔で顔を上げた。
「いいの。だって、絵の中には入れないから」
何の事だか分からないという表情のジノであったが、それでも何かは感じ取ったのか「ふうん」とだけ答えておいた。





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