月なき夜にはあくなき夢を 35 (完結)

君の罪は僕の罰 第二章 「月なき夜にはあくなき夢を 35.」










引っ立てられていく人間たちを眺めながら、カレンはああ終わったんだなとそう思う。隣で受け取ったチップの確認をしていたジノが楽しげな声をあげた。
「あははは」
「何よ」
ほら、と見せられた画面には数字の羅列。最初は何のことなのかわからなかったカレンだったが、ようやく気付く。それはリフレインによって私腹を肥やしつづけていた連中のリストであり、数字は資産額なのだ。
「……どうしてこんなの、」
「おまけに例の2つのチェス盤のからくりまで明かしてくれてる」
シュナイゼルが行った隣のチェス盤からいきなりチェックメイトをする方法だ。あれだけ完璧なものは出来ないだろうが、これだけ資料があれば少し勉強すればジノにも似たような作戦は出来そうだった。いや、それを実践出来るだけの情報を与えてくれているのだ。
「まず勉強して、それからだな」
「ジノが勉強?」
これまで四男ということで、家督を継ぐ気はないと自由気ままに過ごしてきたジノが突然勉強と言い出すのだからカレンだって驚くしかない。
「こんなの与えられたら、やるしかないだろう? 婚約者どの」
シュナイゼルが吸い上げた資産、その殆ど全てが入っている口座も明記されている。
「……これって、でも……」
「あの人たちには必要ないってことなのかもしれないな」
カレンは風になびく髪を手で撫でつけながら空を仰ぐ。きっともう2度と会うことはないとそう確信している。
───本当は会えない人だった。絵の中の幻のような人たち。
「……帰ったら、鞘だけでも社に入れておかなくちゃ」



スザクはルルーシュを膝に乗せ、やわらかな光と風が入り込むテラスで庭を眺めている。ルルーシュは腕をスザクの首にかけてその肩に頭を乗せていた。花咲く庭をナナリーとアーニャが手を繋いで歩いているのが見える。時々こちらを見ては手を振る妹たちに、兄2人も振り返した。起きてきたのは2ヶ月ぶりくらいだろうか。
「ルルーシュ、体はどう?」
「もう大丈夫だ」
甘える仕草のルルーシュの頬にスザクは唇を落とす。

屋敷に戻ってから、ルルーシュとスザクはとことんまで抱き合って互いの気を流しあい、そのまま眠りについていた。それは学校にいる間始終くっついていられなかったというルルーシュの不満───そういうほど離れてもいなかったが───その解消もあっての事だが、一番の理由はマオの催淫剤の浄化である。
なにしろ自分自身で「媚薬」もどきを作り出せるようなルルーシュに、通常の催淫剤の効果が簡単に現れる訳がないのだ。焦ったマオにどれだけ飲まされたのか。ルルーシュの話によると、何度も「ウソツキ、これは失敗作じゃないか」と叫んでいたようだから、本当ならば相当効き目のある薬品だったと推測される。それを裏付けるかのように、持ち帰った小瓶の中身の分析をしたカノンが大笑いしていた。それほど凄かったのだろう。その薬を大量に投与されたのだから、ルルーシュといえど大変だった訳だ。
あの当時のマオは完全にルルーシュの罠にはめられていた。雲隠れしてしまうマオを引っ張り出させる為に、ルルーシュを夢中で追いつづけさせるよう、そう罠をかけた。その罠から逃れる術はない。
通常であれば───スザクと出会う前までのルルーシュであれば、それは一晩の相手に使用する為の罠であったので、用済みになればそれで終わるのだが、いかんせんマオの場合は、数日罠にかかった状態で泳がせる必要があった為、ずっとルルーシュを追うことになる。スザクが危惧した通り、マオはルルーシュを手に入れようと必死になりとうとう薬まで持ち出すことになったのだ。あの時はとりあえず動ければいいという応急処置程度しか出来なかった。ルルーシュの体に残った薬を完全に抜く為に、スザクは何度もルルーシュを貫き、揺さぶり、自分の気を流し込んだ。ルルーシュにしても「自分の意志」ではなく、薬でスザクを求めるなんてことは、非常に気に食わない状況だ。
互いの気はお互いを循環して、時間をかけて浄化された。全てが終われば、ルルーシュはいつものようにスザクの膝の上にいる。

「……スザク、良かったのか?」
何を、と聞くまでもない。先ほどスザクがリビングの暖炉の炎の中に放り込んだ写真のことだ。カレンから手渡された藤堂と凪沙の真ん中で誇らしげな顔をしていたスザク。
「うん。渇望するほどの思い出なんて僕にはないから。あれはリフレインにはならないよ。どちらかと言えばルルーシュを悲しませるものだからね、そちらの方が僕には大事なんだ」
懐かしい、ただそれだけだ。藤堂にも凪沙にも感謝こそすれ、会いたくて会いたくてもう一度あの日々に戻りたいと願うほど思い出はスザクには優しくない。
「先生たちにお礼は言えたけど、別れは言えなかったから……そのチャンスだったんだ、きっと」
「……言えたのか?」
「今度は言えたよ」
さようならと、そう呟いて炎にくべた。だからそれで良かった。
「スザク」
「うん、何?」
ルルーシュは横を向いていた体を、スザクと向かい合わせるように移動させてその体にしがみついた。
「もう学校には行かないからな!」
クスッと笑ったスザクがルルーシュを抱き返す。
「本当に嫌だったんだね」
「当たり前だ! スザクとは自由にセックス出来ないし、独り占め出来ないし最悪じゃないか」
スザクはルルーシュを視姦する男どもにイライラとしていたが、ルルーシュはルルーシュでスザクに注目する女の子たちに腹を立てていた。それに何があろうともスザクの瞳にルルーシュ以外が写り込むなど、許せることではないのだ。当然、ルルーシュ以外に心奪われる存在など以ての外。
「でもシャルル父さんががっくりしていたよ?」
「あんなバカ父など放っておけばいい」
事件のこともあったのだが、シャルルにはもう一つ狙いがあった。幼きスザクが悲しがった「授業参観に親が来ない」状況を打破する為に、自分がそれに参加する計画だ。勿論、そんなことなど出来るはずもなく今回は終了となった為に、父の残念感は半端ない。
「お前はオレだけ見ていろと言っているだろう?」
「ルルーシュから目を離すことなんて出来ない……僕の全部は君のものだよ、ルルーシュ」
そのままゆっくりと顔を近づけて唇を重ねる。軽い口づけはだんだん深いものへと変わり、ルルーシュの息が甘い吐息になったとき、スザクはルルーシュを横抱きにして立ち上がる。
カタンという物音にナナリーとアーニャが振り返れば、ちょうどスザクがルルーシュを抱き上げたまま部屋を出ていくところで、ルルーシュの腕が甘えるようにスザクの首へと回っているのが見えた。
学校にいたときのルルーシュは、スザクがどこかに行ってしまうのではないかという不安に付きまとわれていた───。
「……お兄さま元に戻りましたね」
「ルルーシュ悲しませるのは、もう駄目」
きっとまたしばらくは寝室から出てこないに違いない。妹2人は笑顔で、再び庭を歩き始めた。



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