円舞曲 1.

ちょっと書いてみました。
続くかは不明です。




 話題になっている写真がある。
 この前のテロ事件の際の、最後の救出者を窓から救いださんというその瞬間が切り取られたものだ。
「もう、すっごく話題になったみたいでさ」
 その話題の主が完全にデレデレの状態でスザクとしては滅茶苦茶腹が立つ。まあでもわからないでもない。
「カレンがこんな顔してるのは珍しいからね」
 ナイトオブラウンズ、ナイトオブスリー。ジノ・ヴァインベルグが恋人であるカレン・シュタットフェルトを救い出す、まさにそのシーンだ。いつもならば勝ち気でおてんばで、貴族令嬢なんてものから一番遠いんじゃないのかと考える場所で動き回っているカレンが、完全に安心しきった顔でジノの腕の中にいるのだ。デレまくるジノの向こう側でアーニャがこちらに向けて小さくVサインをしてみせているところをみると、撮影したアーニャも満足の一枚だったようだ。
 お互いにいい顔してるなとスザクも思うが、これで令嬢方の視線からジノが消えたのは同然だ。
 ブリタニア帝国の騎士の中の騎士であるナイトオブラウンズ。現在メンバーの中で男性は4人。ヴァルトシュタイン卿は別格だし、若手は残り3人で、ルキアーノにジノ、スザクだ。ルキアーノには自身の親衛隊があるため、少し女性たちは遠慮がちになる。ほがらかで明るいジノがこれまでは中心だったが、あの写真でカレンが完全に公の恋人として広まったことで、令嬢たちの注目はほぼスザク一人に集まる。

「……勘弁してよ」
 スザクはするりと人々の間を抜けて、一人バルコニーへと出てきた。振り返った大広間では皇帝主催の舞踏会が催され、きらびやかな空間があった。先だってのテロの壊滅祝賀パーティーだ。いちいちこんなことしなくてもいいのにと思うのだが、これも仕事だと言われてしまうとどうしようもない。人脈をこういった場所で広げておけということなのだろうが、スザクはそれ以上にこちらに向けて娘を押しつけてくる輩に辟易していた。思った通り、スザクへの負担が以前の倍以上だ。
 静かに抜けてきたせいで、誰もスザクがここにいることには気付いていないようだった。バルコニーが薄暗いせいもあるだろう。こちらからはよく見えるが部屋の中からは気付かないようだ。
 こうしてガラス窓越しに中を見ているとまるで自分とは関係のない世界のようだ。甘ったるい香水の香りからも離れ、ぼうっと眺める。広間にはいつの間にかワルツが流れ、互いに着飾った男女くるりくるりと回り続けていた。パートナーを探すような輩もちらほらいるようで。そのうちの1人が女性に申し込んでいる姿が見えた。黒髪を結い上げた華奢な腰つきの女性がそっけなく断る様子が後ろからでもわかる。だが相手の男は懲りずにしつこく誘っているようだ。
(野暮だなあ。さっさと諦めた方がいいのに)
 あれでは周りの女性たちからの評判も悪くなるだろう。どうするのかと眺めていると、女性がばんと立ち上がった。その勢いにあっという間に意気消沈。スザクが「へえ」と感心して見ていると、その女性がくるりとこちらを向いた。

 ほっそりと引き締まった細腰、艶のある黒髪をまとめ、飾り櫛を挿していた。長身があるせいで
不思議に中性的な色香がある。深い紫紺の色に極々淡い薄紫のレース、裾に重なる飾り襞がさやさやと絹が鳴る、ということは……近付いてくるのだ、その貴婦人が。
(うわ、まずい)
 逆光で顔がよく分からないのだが、その女性が睨みつけながらこちらに向かってくるのは間違いなかった。面白がって見ていたことに気付いたのだろうか。と、その人はスザクの少し手前で立ち止まり、ぱしんと手にした扇でスザクを指し示した。
「お前、オレがわからないのか、この馬鹿が!」
「へ……えっ、うわっ、で、で、殿下!?」

 目の前にいたのはスザクの最愛なる人、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子だった。

「……ど、どうしたんですか」
 どこからどう見ても女性である。いつも抱き寄せる細い腰はさらに細く、薄い唇は濡れたような艶やかな紅色だ。だいたいその結い上げた髪はどうなんだ、どうやったらそこまで女性に化けられるのだ。
「女に言い寄られた鼻の下を伸ばしきっているナイトオブセブンの面を眺めにきただけだ」
「……そんなことはありませんよ」
 ルルーシュは扇で顔を半分隠しながら、目元だけがにやりと動く。
「どうだ、見事だろう? ナナリーとユフィに手伝ってもらったんだ」
 あんの妹姫2人組めっ!とスザクは内心で拳を握りしめる。
「誰もオレだと気付いていないぞ」
「殿下が表に出てくるなんて誰も思っていませんから」

 そう、ルルーシュは表側には決して出てこない。ブリタニア帝国の裏で暗躍する黒の皇子として名を馳せているのだ。
 スザクが身も心も捧げ、惚れて惚れて、惚れ抜いている相手でもある。

「……本当はなにかあったんですか?」
「だからさっき言っただろう? お前のでれでれした顔を見に来た」
「……カレンに何か言われたんですか?」
 このスザクの質問にルルーシュが少しだけ表情を変えた。ジノの恋人のカレンは表向きはシュタットフェルト家令嬢だが、ルルーシュの親衛隊「黒の騎士団」のメンバーでもある。存在していることは知られていても、誰が在籍しているか全く不明の騎士団だ。
「カレンがスザクも相当もてるというから、確認しにきたんだ}
「……はあ、なるほど」
 どうせみんなでジノとのことをからかったのだろう。それでカレンも「スザクもですよ!」とでも話したに違いない。
「僕は殿下一筋ですよ」
「その割には嬉しそうだったな」
「社交辞令です」
 ああいう席ではにこやかに後腐れなく動くのが一番であるが、それも許せないらしい。いつも振り回されてばかりの相手の動きにスザクがにこにこ笑うとルルーシュは渋面を作り、すっと右手を差し出した。
「? 殿下?」
「一曲踊れ。広間の真ん中で派手にな」
「イエスユアハイネス」
 絹手袋の指を取り、軽く細腰に手を添えた。
「これ、どうなっているんですか?」
「コルセットでぎゅうぎゅうに締め付けてある。そろそろ苦しいんだ」
 ルルーシュは抱き寄せられた相手の耳元でそっと囁く。

 早く脱ぎたい。

「っ、殿下」
「という訳だから、目的を達した後はすぐに退室する。わかったな」
 艶めいた目元にスザクはそっと唇を押し当てる。
 さあ、今から思い切り見せつけてやろう。


 翌日、ナイトオブセブンとその相手の令嬢の話題で持ちきりとなったという。


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