指紋をつけて所有権を請う

レギュレータ 新春ver.













玄関で皆が待っていると、一人遅れてきたゲンブが走ってくる。そのゲンブの姿を見て、ゼロが小さく「あっ!」と叫んだ。
「ゲンブ! 貴様、オレのコーディネイトが気に入らないというのか!?」
「違うって! ネクタイ変えただけ。ゼロとお揃いのヤツにしてきた」
一度ここまで来たくせに再び舞い戻った理由は、どうやらゼロのしめているタイを見て、ペアにしたいとそういう事らしい。
「お前はバカか。そのスーツの色だと、組み合わせがおかしくなるだろうが! 来い! スーツを選び直してやる!」
ずるずるとゲンブを引っ張っていくゼロを、枢木首相夫妻及び使用人たちはやれやれという面もちで見送る。
どうやら、ネクタイのペアというのはゼロの中でも容認されたらしい。
「まあ、いいわよ。見せびらかす為に出席するだけなんだから、ちょうどいいでしょ」

今から、とあるホテルで行われる新年会に家族揃って向かうところだ。日本国首相としては、あまりこういったパーティーに個人で参加はしたくないのだが、このパーティーには夫人の方が参加しましょうと夫に声をかけた。愛妻家である首相は2つ返事で了承したのだが、夫人は決してパーティーに参加したいだけの考えでこう言っている訳ではない。
主席者を確認してみれば、そうそうたる有名人、著名人揃い。
『これを狙わなくてどうするの?』
それは決して政治家としてのパイプを更なる太い物にという考えがあるわけではなく、また正式に枢木家を継ぐことになった嫡男のお披露目をする訳でもない。
『なんてお誂え向き!』
数ヶ月前から滞在しているブリタニア皇子の美貌を見せびらすこと及び、手を出すなと知らせる為の舞台設定に利用させてもらうだけだ。もちろん、この皇子に勝てないんだから、ゲンブに娘紹介したいなんて馬鹿なことするなよという牽制をかける為でもある。
何しろ、ゼロは現ブリタニア皇帝ルルーシュの実兄だ。そして、ゲンブは前皇帝の直属の騎士であった。弟のスザクは現皇帝唯一の専任騎士。本人も、後ろも、あまりに大きく、なんとか繋がりを持ちたいという人間はごまんといる。
そこのところを、しっかり「無理!」と示すことは非常に重要なのだ。


「……全く、お前は」
「えー。最初っからゼロもそれにするならそれにするって言ってくれれば」
枢木本宅の離れは、すっかりゲンブとゼロの居住空間となっている。すべてを知っていた母たちにより、ゼロの部屋は整えられていたので、ゲンブが当然のようにそこに移動した。最初は阻止を試みた母たちであったが、ゼロが嬉しそうだったので仕方なく黙認している。それ以来、2人の部屋となっていた。リヴァルやシャーリーの言う、いわゆる「新婚の部屋」状態だ。
ゼロは現在、アッシュフォード学園にゲンブと共に通っており学園生活絶賛満喫中だ。学校に行くという事自体初めてのことで、最初は戸惑いの方が大きかったのだが、何しろ手を貸せばあの美貌の笑み付きで「有り難う」と礼を言われるということに全生徒が夢中になり、皆がゼロに手を貸し続けた。おかげで、すっかりとけ込んで、毎日楽しそうだ。その分、ゲンブの機嫌も急降下していくのではあるのだが。

「ほら、こっちの方がいい。着替えろ」
クローゼットから取り出したスーツをゼロから受け取り、ゲンブは着替えを始める。確かにネクタイに合わせるのなら、こちらのスーツの方が色はいい。どうしてそのタイなんだというゲンブに、ゼロは笑顔で答えた。
「このタイは、義母上からの贈り物だから身につけるべきだ」
こちらに来て初日に、母はゼロに「お義母さん」と呼ばせるべき作戦をとり、それは見事に成功した。言い分としては『嫁にもらうんだから、やっぱりお義母さんよ!』ということらしい。そして、ゼロの方も10歳で母を亡くしていた為、義母上と呼ぶことが嬉しくて仕方ないらしい。双方楽しそうで結構なことだ。それに便乗して父のほうも『義父上』と呼んでいる。そして、2人とも可愛い「嫁」にでれでれだ。もともと父は高級料亭にもハイクラスなホテルにも興味が無く、自宅が大好きな人であったので、夕食は家に帰っていることが多かったのだが、その回数はさらに多くなった。しかも、枢木首相のブレーンに今やゼロはかかせない人材になっている。一緒に行動した藤堂はともかくとして、父のバックが全員ゼロの優秀さに舌を巻いたのだ。そうやってゼロは現在視野と人脈を広げつつある。
ゲンブはもう一度ネクタイをしめ直す。初めて母とゼロが2人だけで買い物に出かけた際に(父と息子は留守番)購入したものだ。色違いとはいえ、揃いで買ってくるところがまた可愛いよなと思うが、口には出さない。
全部身につけたゲンブを上から下まで見てから、ゼロはうん、と頷いた。
「よし。合格」
行くか、と歩きだしたゼロの腕を引っ張ってゲンブは腕の中に収めると、唇を重ねる。
「……俺の傍から離れるなよ」
「お前こそ離すな」
ゲンブはゼロの心配ばかりしているが、ゲンブの方こそ気をつけろとゼロは思っている。
───狙う女どもの多いという事実に、こいつは無頓着過ぎる!
だが、周囲は「どっちもどっち」であるということが分かっている為、2人に近づくこともさせない。
もう一度、と強請るゼロに、ゲンブは応えるべく再び細い体を抱きしめた。


そして、海を隔てたブリタニア帝国においては。
「ルルーシュ、ほら、お茶煎れましたわ!」
忙しい政務の合間、僅かな休憩にユフィが飛んできて、ルルーシュを引っ張っていく。とはいっても、まだ杖が手放せないユフィなので、ルルーシュの方が慌てて走りよるといった感じである。そのルルーシュの後ろから、むすっとした顔をしているのが皇帝唯一の騎士、ナイトオブゼロ枢木スザクだ。
なにしろ、少し油断すると、こうして妹姫が引っ張っていってしまうのだ!
にっこり笑顔のこのピンク色の姫は、騎士から兄を取り上げると更にふふふと笑っている。
「……小姑」
「スザク、何か言いました!?」
「……言ってません」
とにかく、この状態が続いている。しかしながら、表向きは主従関係であるとはいえ、ルルーシュとスザクは恋人同士だ。スザクは私室を一応持ってはいるが、そのすべてをルルーシュの部屋で過ごしているし、どちらかと言えばこの状況に誘ったのはルルーシュの方であった。
あのルルーシュに『スザクと一緒がいい』と言われて、断るバカはいまい。当然、寝室も同じであり───というかベッドは一台しかないので、夜は当然営みが行われる。勿論スザクは現在のルルーシュと自分の立場を理解している為、貪り倒すようなことはしない。本当は、毎晩ルルーシュをとことん愛し抜きたいところを、なけなしの理性をかき集めて、必死で我慢している。

深く深く、一番奥まで押し込んで啼かせたい。抜く時にさえ離したくないと締め付けてくるルルーシュの内壁から逃れるのに、どれほどの決意が必要か。

皇帝位についたばかりで、成すべきことは片づけても片づけても減っていかない。いくら周囲は信頼できる者たちしかいないという、非常に希有な存在の皇帝であったとしても、側近たちでは片づかない事の方が多いのだ。息子に譲位し、現在ではシャルル大公と呼ばれている先代皇帝も何かと手伝ってはいるのだが、とにかく忙しすぎた。双子の兄に外交を任せているので、国内のみに気を配れるといっても限度はある。
だから、たまにある休みの前日くらい!と思うのに、これが都合よくいかない。何故かというと、ルルーシュが休みだからこそ遊びたいと、妹姫たちがやってくるからである。

スザクが貪ったら最後、ルルーシュの体力では半日はベッドから起きあがれない(実践済み)。

たまの寝坊を楽しみ、互いにすり寄ってまどろむ時間も恋人たちには必要不可欠!とスザクがいくら抗議しても、ユフィを始めとした女性陣からはねのけられる。なにしろ、あのラウンズメンバー、ノネット、ドロテア、モニカにアーニャにずらりと囲まれるのだから、たまらない。
「僕だってルルーシュ可愛がりたいよ!」
「あれ以上、何をどうすれば可愛がっていないことになるんですか?」
毎晩、あれこれしているくせにとユフィに文句を言われ、2人でルルーシュを挟んで言い合いするのはしょっちゅうだ。「ナイトオブセブンを専任騎士にしたい」と申し出た事があったとは思えぬ2人のやりとりに、挟まれたルルーシュも困り顔。
「……お前たち、いいかげんにしろ……」
「ほら、ルルーシュも困っているじゃないですか」
「どーして、僕だけが悪いことになるんだろう……」

だが、ユフィ達がスザク側につくことがある。スザクに婚姻話が持ち込まれる時、だ。
枢木スザク。日本国首相を父に持ち、現在ブリタニア皇帝唯一の騎士となっている。日本はサクラダイトの世界最大埋蔵地であり、実家の枢木家は、サクラダイト発掘を牛耳るキョウト六家の一つだ。双子の兄、ゲンブはその枢木家の跡継ぎと正式に発表されている。ゆくゆくは父と同じ道を行くに違いない。
家柄良し、バック良し、しかも容姿も文句なしという、なんとも好条件の物件である。それに目を付けない女はいなかった。
こういったことで、スザクには山のように見合い話が持ち込まれる。純粋に本人狙い、というものかなりの数があったが、なにしろ、本人でもいいし、兄でもよい。もしかしたら、皇帝に近づけるかもしれない。皇帝には騎士と同じく双子の兄がいるが、こちらは現在日本にいる。どうやら、枢木家と懇意の仲だというから、こちらを狙ってもよし───と、こういう事も重なって、押し寄せる話は断っても断ってもやってくる。
そして、こういう話が来ると、顔を曇らせるのがルルーシュなのだ。もちろん、皇帝に近づきたいという裏があることも分かってはいても、スザクに向ける女性達の視線に悲しげな顔を見せる。
ユフィ達の一番最優先させるべき事は「ルルーシュ皇帝の幸せ」であるため、これは完全に抹殺すべきこと。その為、スザクが正面切って断ることが出来ないような、他国のTOPからの話などは、シャルル大公に話をさせて断ってくれていた。パーティーなどで、他の女が近づこうと試みても、その前にさっとユフィが動いて壁を作ってくれる。
これが唯一、スザク側になって動いてくれる事項だ。
当然ではあるが、ルルーシュ皇帝に持ち込まれる話の数は、スザクの非ではない。これについては、
「全然、僕の味方になってくれないんだよな……」
実は陰でこっそり排除しているユフィ達であるが、それを表だって動くことはしない。何故か。理由は一つ、スザクが困った顔になって、焦りまくる様子を楽しむ為である。
「ユフィ……あれでは枢木が困るだろう?」
「あらお姉様、だってスザクって結局ルルーシュを独り占めしてるんですもの!」
スザクに限らず、ゲンブもゼロを独り占めだ。どちらも大好きな兄2人を笑顔にしてくれている為、仕方ないなとユフィは思うのだが、ちょっぴり寂しいのも事実。コーネリアは妹の頭をそっと撫でる。
「ほどほどにしておくように」
「はーい」
それに、スザクがルルーシュのことで本気で怒ったり、立ち向かう姿に見せるルルーシュの笑みが綺麗だから、というのも理由の一つ。
きっと、かの国でも兄の笑みを守るために、騎士が立ち向かっているに違いない。


双方の国で新年の祝賀パーティーは行われる。双子の兄弟がそれぞれのパートナーを離さず、周りから送られる視線をはねのけ続けていたのは、どちらも同じ。




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