月なき夜にはあくなき夢を 29.

君の罪は僕の罰 第二章 「月なき夜にはあくなき夢を 29.」








スザクにしか出来ない。
神楽耶の力を秘めた神剣を手に、神楽耶の光の力を受け継いだスザクは舞う。地を清め、魂を鎮め、封印する為に。
黙ってそれを眺めていたカレンは、その舞の所作に剣の立ち居振る舞いの全てが凝縮されている事に気付く。
(……毎年奉納されていた舞……)
枢木神社にはもう神殿すらない。申し訳程度に小さなお堂が建っているだけだ。それでもそれが何であるかも知らなかったけれど、舞の一部はずっと継承されていたのだ。もしかしたら、今、この瞬間の為にそれらはずっと繋がってきたものではないのか。

神楽耶が空を見上げる。
浄化されていく空気の中を、スザクの舞がこの場所にまで伝わってくるのだ。
「……スザクの舞は本当に綺麗で見事で……」
実際は爆発する音や、人の騒ぐ声などもするはずなのだが、それら一切を静寂が包み込んでいる。その静寂が波動のように広がり、研究室の破壊と崩壊を繰り返していたシュナイゼルとカノンのところにも押し寄せてきた。
「……成程、凄いね」
「集められてますわね」
研究員の胸倉を掴んでいた手を離すと、カノンも空を見上げる。支離滅裂な言葉を発しながら半分腰が抜けた状態で、研究員達が逃げていくが後を追う事はしない───わざと逃がしたとは気づくことはないだろうが、それももうどうだっていい。
残存していたV.V.の力が、スザクによって封印されるべく吸い取られているのだ。通常の人間では見えないものが見えるという能力があるからこそ、この素晴らしいものを見ることが出来る。
「そうでうわね、一言で言い表すのならばザマーミロと言ったところかしら?」
「おや奇遇だね。私もまさにその一言だったよ」
2人は並んで歩き、あるところまで来るとシュナイゼルが右手を上げる。その瞬間背に現れたのは、ルルーシュよりも若干大きい翼だ。右手を大きく動かせば、研究所があった場所にドーム型の空気の膜が出来上がる。
もう誰も残っていない研究所。
僅かに指が動いたかと思うと、ドーム内で大爆発が起きた。ただし、ドームの外では木の葉一枚落ちない。
「消滅したかな?」
「完璧でしょう」
リフレインのデータ消滅に少し時間を取られたのは、計算外であったが、それは仕方ない。何しろ、紙データやシステム破壊で終わる時代ではなのだ。ネットワークによって、それこそ世界中にデータが広がることなどあっという間というときている。どこにどれだけのデータが送られているのかまで調べ上げた上で、完璧に消してしまわなければならない。この場所の破壊で済む話ではない。とはいえ、研究員達は自分達がそれこそ何重にも施したパスワードやセキュリティーが、シュナイゼルやカノンによって次々と壊されていくことに驚愕し、動くことすらも出来なかった。

張りつめた空気に、キンとした冷たさが加わる頃、スザクは最後の振りを決める。
(そうだ、この瞬間に朝日が昇ってきていた)
あの祭りは体が覚えている。
父シャルルの完璧な計算によって建立された枢木神社は、ただ神楽耶を守りそして時が満ちたときにスザクが生まれ落ちる場所として存在していた。すべての役割を果たした今は、もう不要な地なのだ。
(でも、あの場所は今もあり、今回も大きな助けをくれる)
振りかざした剣を一思いに突き刺した。それは寸分違わず、V.V.の残存思念の真ん中を貫通する。パン、と何か弾けたような音と共に、消えていた周囲のざわめきが戻ってくる。


ふう、と大きく息を吐き出したスザクは突き刺した刀をそのままに、その身を翻すといきなり走り出す。
「ちょっと!」
電気系統がやられたのか、学園の中は薄暗い。今夜は新月であるために、月明かりは期待できそうもない。それなのにスザクはそんなもの関係ないとばかりに生い茂る木々の合間をするりと抜けていく。
「おい! ちょっと待て!」
「……なに?」
何度目かの呼びかけでスザクはようやく足を止める。振り返った姿に、今までの人好きのする笑顔や穏和な雰囲気はどこにもなかった。どこからどうみても相当な怒りを抱いていることがわかる。一瞬、言葉に詰まったジノとカレンではあったが、どこに向かおうとしているのかは確実だ。
「お前、ルルーシュのところへ行くんだろう? マオもいるはずだ」
「……ああ、そうだね、そうか。君たちがいる方が止められるかな」
「何を止めるのよ、マオを止めるの?」
カレンの質問にスザクは笑みを浮かべて違うよと答える。だがその笑みはぞっとするほど冷たい。
「あいつを殺すこと、だよ。このままじゃ僕は何するかわからない」
「……おい」
「ルルーシュの香りがおかしいんだ。一体何をされているのか……」
それだけ言うと、スザクは再び動き出す。さすがに今回はスザクも足を弛める気はないのだろう、とんでもない早さでその後を追う2人は全速力で走るしかないのだ。闇雲に走っているように見えるのだが、スザクには場所が分かっていると言っていた。その背中を追いながらカレンはただ「ごめんなさい」と繰り返しているばかりだ。謎だらけの騒ぎではあるが、はっきりしているのは自分のせいでルルーシュは捕まっている、ということだ。大人しく外で待っていれば良かったとどれだけ後悔していることか。元を正せば向こうの連中が一番悪いのではあるのだが、これに関してはカレンは自分を責めた。君のせいじゃないとスザクに言われる度に自分のせいだと思う。

そこは学校の端、生徒達も気味悪がって近寄らない老朽化した旧校舎であった。取り壊し予定で、立ち入り禁止になっていたのだが、そういえばなかなか工事しないなと思っていたのだ。
「……なるほど、工事はカモフラージュだったという訳か」
中に入れば最新のエレベーターが設置されていた。外をぐるりと越えてきたが、おそらくあの研究室から何か秘密の通路でもあるのだろう。直線にすればさほど距離もない。マオがルルーシュを連れ去った時に崩れた壁の向こうが隠し通路だったに違いない。
部屋がいくつも並んでいるのだが、迷うことなくスザクは歩き続ける。

ようやく辿り着いたのは一番奥の部屋であった。
さほど重要な部屋でもなかったのか、簡単な数字キー入力のロックがついているだけだ。
「せいぜい4桁ってとこか?」
ロックを調べようと近づいたジノをスザクは止めた。見た感じから、そう頑丈そうにも感じない───勿論、金属製であるし一般から見ればかなり頑丈な部類に入るだろう。だが、スザクには関係ない。
呼吸を整え、一歩下がる。
(何に手を出したのか、思い知らせてやる。お前如きが触れていい存在ではないんだ、ルルーシュは)
右足がブンと音を立てて空気を切り裂き、次の瞬間ドアが吹っ飛んでいく。ジノとカレンも止める間もあればこそ、スザクはそのまま部屋へと乗り込んでいく。

そこに見た物はあってはならない光景だった。

奥に置かれた寝台の上、ルルーシュのシャツの前は肌蹴ており、滑らかな白い肌がくっきりと薄闇に浮かび上がっていた。中途半端に脱がされたシャツが腕を動かせぬよう、縛り上げる役割も担っているようだ。
スザクは思わず低く唸る。
ルルーシュの虚ろな表情はそれでも艶めかしく、仰向けで体をよじるようなその仕草は誘っているとしか思えない。おそらくこの場にいる者の中でスザクだけが感じるルルーシュの香りは、濃厚な誘惑の甘い蜜を湛えている。尋常ではないその重さにスザクが視線を向けた寝台の足下には、薬瓶と思われるものが、いくつも転がされていた。
「……薬を、」
「そうだよ、飲ませたんだ!」
あまりのことに、動けずにいたマオであったが憎むべく相手の驚愕している様子に、少しずつ自分を取り戻しつつあるのだろう、嬉しげに声が弾んでいる。欲しくて欲しくてたまらなかった相手をこの手に捕らえ、邪魔であった奴の悔しげな顔に笑いが止まらない。
「ねえ、見てよ、綺麗だろう?」
滑らかな肌にマオがナイフの刃で触れる。きっとぎりぎりのところで止めてあるのだろうが、あれでは少しでも動けばルルーシュが危ない。
長命種であり、不老ではあっても不死ではないのだ。心臓をやられればひとたまりもない。
ナイフを当てたまま、マオはこれみよがしにルルーシュの肌を手でなで上げる。
「……さっきようやく薬が効いてきたみたいでさ……効きが悪くて困っていたんだけど、結局はいいタイミングで良かったよ。そこでボクの手に堕ちるのを眺めていなよ!」
ナイフの先がルルーシュの白い肌に僅かに食い込んだのか、赤い血が滲んでいるのが分かる。それを見てもスザクは動くことすら出来ないのだ。自分の後ろでカレンが小さく悲鳴を上げたのが聞こえたが振り返ることもせず、怒りのまま硬直している。
あのナイフがあるかぎり、指一本動かせない。目の前にルルーシュがいるのに動けない自分に腹が立つ。どうしたらいいのかと、考えあぐねるスザクの前で、ルルーシュの声がした。
それは甘い、囁きだ。
虚ろな目のまま、そばにいる男に向かって「スザク」と囁いていた。自分に触れる男はただの一人しかないと、そう思っているのだろう。
「……なあ、スザク。もっと……」
強請るように腰をよじり、体を擦り寄せる。その動きにスザクは硬直する。
(ナイフが!)
だがルルーシュ本人はそんな事に気づきもしないのか、更に愛撫を強請るように体を動かす。覗く赤い舌は誘うように唇を舐めた。
「早く……スザク」
すり、と自分から胸の赤い尖りをマオの腕に寄せてくる。思わずマオがその場を忘れても仕方のない、とんでもない空気が立ちこめ始めている。あまりの妖艶さに言葉も出ないのだろう、強請られるままに空いている方の左手でルルーシュの胸に触れれば、甘い喘ぎが漏れ始めた。
スザクの頭の中はすでに灼けつくように熱い。
「アッ、あ、っスザク」
「き、気持ちいいの? こう、かな?」
「いいっ! ンあ……早くこっちも……もっと」
壮絶とも言える流し目と色気を湛えたその顔で甘く囁かれ、マオは状況を忘れる程夢中になる。いつの間にかシャツから抜かれた白い腕が、しなしなとマオの首にからみつく。耳元で何度も早くと囁かれ、その誘惑のままもう片方の小さな尖りにむしゃぶりつく為に───ナイフから手を離したのだ。
まさかと思う、信じられない光景。
「……え?」
スザクたちにしてみれば、考えられない失態だ。だからその瞬間、とっさに動けなかったスザクより先に、ルルーシュの腕がナイフを払いのけた。

「スザク!!」









ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 21

驚いた 驚いた
面白い 面白い
ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
かわいい